「いらっしゃいませー」
がらんとした店内に私の声が響く。

「私、これとこれ。キヨは何にする?」
「んー


君はオレンジをたのむのでしょう


      オレンジ」

「かしこまりました。」やっぱり、と思う。
「先にお会計の方よろしいでしょうか」
「あ、はい」

レジのボタンを押しながら値段を言えば、それよりも少し多めのお金を『キヨ』が財布から出し受け皿に 乗せ、それを受け取り数字をレジに打ち込みお金を取り出す。
彼が、右手を差し出してくるので受け皿にはのせずに彼の手に渡す。

いつも通り、何の変哲もない店員とお客さんである。
だけど少しほかのお客さんと違うところがあるのだ。
いつも『キヨ』は直接私の手からお釣りを受け取る。
そして、レシートを渡すときに絶対手が触れる。

私は、アイスを乗せるためのコーンの用意をする。このキヨと呼ばれている(多分中学生だと思われる)男の子はここ一ヶ月ほど前からうちの店の常連さんになった。
決まってくるのは女の子と一緒だ。けれど一緒に来る女の子は今日来た子を合わせると4人目だ。(一月で4人って・・・)
いつも決まってオレンジ味のアイスを頼んでアイスと同じ色のふわふわな髪を揺らしながら帰っていくのだ。
オレンジの髪にいつも同じオレンジ味のアイス、こんなに印象が強いのだから覚えてしまった。

先に女の子のアイスをすくってのせる。

前に、『キヨ』の方を先にしようとオレンジのアイスをすくおうとしたら。自分のは後でにしてくれ。と言われたからそれからは女の子の方を先に作るようにしている。
あの時は、まさかそれから3人の女の子を連れてくるとは思わなかった。

考え事をしながらでも慣れた手つきでピンク色のアイスをチョコレート色の上に乗せる。
「お待たせいたしました」出来たそれを彼女に手渡せばうれしそうに受け取った。
もう一つのほうを作ろうとコーンを手にし、下げていた目線を上に上げると。『キヨ』がじっとこちらを見ていた。
先ほどまで一緒にいた女の子は少し離れたところにあるイスに座り、アイスを食べながらも目線は右手に持ったケータイだ。
私は気を取り直しオレンジ色をすくう。


いつも女の子を先に座らせる。そして私がアイスをすくうのをじっと見てるのだ。


「たいへんお待たせいたしました」

「ありがとう」


にっこり、という表現がぴったりな笑顔だ。
私はカウンターの向こうにいるキヨに届くように手を伸ばす、彼も受け取ろうと手を伸ばした。
触れる距離まできて彼はアイスをつかむようにして私の手も一緒に、その大きな手に包んでしまった。

「え、」

驚いて彼を見る。さっきまでにっこりと笑っていた顔が今は真剣な顔をしている。
サッと目を手元のオレンジに向ける。と同時になぜか、アイスが溶けてしまう!という焦りが頭に浮かんだ。が、手は固まったまま動かない。
彼の熱と私の熱でこのアイスはじわじわと溶けていっている。

「キヨー?」

ハッとして女の子の方を見る。咄嗟に手を振り払う。けれどそこにはすでにアイスも無ければ彼の手も無かった。

「めんごーいこっか!」

正面にいるキヨは笑いながら女の子を手招きしている。
そしてまるで何事も無かったかのように、自動ドアに向かって女の子と歩いて行く。

「ごちそーさま、さん」
「!!」

最後にくるりと振り向いてにっこり。何で私の名前知ってるの!?と思ったが声にならなかった。髪やアイスだけでなく白い学ランもうっすらと夕日のオレンジに染まって『キヨ』は帰っていった。
そこで私は異常なほどに早く脈打つ心臓に気づいた。が、その意味は考えないようにした。






(20080504)