五日前
朝起きると少し喉が痛いような気がしたが気のせいだ。と自分に言い聞かせて、そのまま過ごす。


四日前
昨日よりも、喉の痛みがひどくなっているような気がしたが。これも気のせい気のせい。でやり過ごす。


三日前
鼻水も出てきた、流石にちょっと気のせい。では自分でも誤魔化し切れなくなったので、いつもなら迷わずから揚げ定食 を選ぶのだが少しでも元気になれそうな野菜炒め定食を選んだ。これで少しでも良くなればいいのだけれど…


二日前
が!やはりそんなに甘くなかった。声ががらがらになって、鼻が詰まって呼吸が出来にくい。食欲も無くなる。 友達が心配して何回も保健室に行け。と言ってきたが、そういうわけにはいかない!だって保健室には…!


昨日
朝起き上がるのでさえもしんどくて、頭がぼーっとしていてあまり何も考えられない。ついでに咳も出てきた。 友達がホントに大丈夫なの?と何回も聞きに来た。大丈夫などではないが、笑って誤魔化す。


そして今日
実技の授業中、外に立って山本シナ先生の説明を聞いているときに頭がくらくらしてきて立っていられなくなり、 目の前が真っ暗になった。















目を覚ますといつも見ている天井とは少し違うような気がして違和感を感じる。 上半身だけ腕を使って起き上がる。相変わらず体はだるくて頭もぼーっとしている。 その上になんだか後頭部が痛い気がする、手を上げるのでさえだるく感じながら、後頭部を触ってみると大きなタンコブ が出来ていた。そこで、あっ。っと思い出す。そういや倒れたんだ…。
やってしまった…。
両手で顔を覆う。と、そこで気づく、って事はここはもしかして…!!
慌てて起き上がろうとする。が、いつもの調子で起き上がろうとしたために体が追いつかなくてよろけてしまいそのまま 倒れてしまった。受身も何もとれずに倒れたのものだから、すごい音が響いた。おしりを思い切りぶつけてしまったから かなり痛い。


「…いったー」
「どうしたの!」


大きな声を上げながら衝立をどかして緑色の大きな物体が現れた。


「こけたの?大丈夫?」


しゃがみ込んだ、緑色の物体…などではなく善法寺先輩?!いつも以上に回らない頭でぼーっと尻餅をついたままの格好 で善法寺先輩の心配そうな顔を見ているだけしか出来ない。

「高熱が出てるのに無理しちゃ駄目だよ」

困ったように眉をハの字にして笑う先輩に熱のせいではなく別の意味の熱が顔に集まるのが分かった。けど、先輩には熱の 所為だと思われているだろうな。

「はい。ちゃんと布団に戻って」

そこで、やっと頭が回り始めた。支えて立たせてくれようとする善法寺先輩の手には気づかないふりをして自分で立ち上が る。今度はこける事なく立ち上がれた。


「だ、大丈夫です!ゲホッというか直りました!ありがとうございました!ゴホゴホッそれでは!ズッ」


どうにか我慢しようと思ったのに最後に鼻を吸ってしまった。かっこ悪いから吸わないよう我慢したのに。 走って出て行こうとしたのに右手に引っ張られる感覚がしたので、見てみると善法寺先輩の手が私の手を掴んでいた。 その手の先を見ると先輩はいつも見るような後輩を見る優しい顔でも、さっき見た困ったような顔でもない少し怒ったよ うな顔をしていた。
そうきつく掴まれているわけではないのでその気になれば振りほどけるのに何故だか振りほどけない。


「待って!大丈夫じゃないよ、倒れたんだよ?」
「…」
「倒れるほどなんだから、立ってるのでさえ辛いはずだよ」
「……」
「分かったら、ここに寝て」


そう言うやいなや、掴まれていた腕がぐっと引かれる、いつもならばこのくらいの力でよろけるなど無いのだけれど熱に犯 された体はいとも簡単に倒れた。反射的に目を瞑る。
閉じた目をおそるおそる開くとぼやけた目の前に焦った様子の善法寺先輩の顔が見えた。


「ごめん!大丈夫?!」
「…はい。」
「ほんとにごめん!そんなに力入れたつもり無かったんだけど…ごめん!」
「…大丈夫です」


というよりやけに顔が近くないか?目の前で見る先輩の顔は遠くから見るだけでは分からない所まで良く見えるな。 あぁ、また困ったような顔。霞んだ頭の端でぼーっと考える、


「あの、さん…?」
「ズッ…」
「えぇと、取り合えず布団の上に寝てもらってもいい?」
「……」
「薬の用意とかもしたいし…」
「……」
「…お〜い?」
「…わっ!」


やけに近いと思ったら善法寺先輩の膝の上に寝転んでるからじゃないか!通りで暖かいと思った。急いで横に寝転んだまま の状態で移動する。その時に焦りすぎて後頭部をまた思い切りぶつけてしまった。


「いたっ!すいません」
「大丈夫?!」


何だか善法寺先輩に変な所ばかり見られている気がする。絶対に騒がしい子、だとか思われてそうだ。自分で考えてその考 えに落ち込む。大人しく布団の中に戻ると先輩は満足そうに一つ頷き、あの後輩の子達に見せる優しい笑みを私に向けた。 その微笑みに私の体温が上がったのは気のせいなどでは無いと思う。
ここにお世話になって果たしてこの熱は下がるのだろうか。

ふわふわの栗色の髪が揺れるのを見ながら熱によって浮かされた頭で考える。






体温上昇







(20080908)