「白石ー! 呼ばれとるで〜」 教室の入り口から叫んだ鈴木君の前には、どこか落ち着かない様子の女の子が立っていた。そこで、ピンときた。 また告白か。 「おぅ、分かったわー」 呼び出された白石は素早く椅子から立ち上がり女の子の元へと走っていった。鈴木君にちゃんとお礼を言ってから女の子 と一言、二言話してから一緒にどこかに行ってしまった。白石と話している間の女の子は緊張のためか顔を真っ赤にしていた。 「ホンマ、ようモテるなぁ〜」 半ば感心しながら呟く、今ので今週でも私が知ってるだけで二回目の呼び出しだ。このままいくと、白石は学校中の女の子 から告白されるんじゃないだろうか。 口の中の飴を舌で転がすと、カラカラと音がした。そして隣からはガリガリと、飴を噛み砕く音がした。謙也だ。 どうせ「白石ばっかモテるんはおかしいやろ!」とか、負け犬の遠吠えみたいな事を考えているんじゃないだろうか。 「...なんや、その目」 「ベッツニー」 「めっちゃ棒読みやないか! 言いたい事あんのやろ!」 「別に何もありませんわ」 「...その話し方、ものっそい腹立つわ...誰か思い出して」 「財前君を意識してみました!!」 「今すぐやめろ!」 謙也は怒りに任せるようにしてガリガリと飴を粉々にした。哀れな飴は味わわれる事無くその生涯を終えた。 「まぁ、謙也も黙ってたらモテると思うで?」 「黙ってたらって何でやねん! そこも俺の魅力やろ!」 「魅力...とは、ほほぅ...これまた大きく出ましたな」 「何やねん、その喋り方!」 「いや、だって黙ってたらいいのに! っていうの代表やん。謙也」 「それはつまり?」 「やかましい」 「そっちちゃうわ! 顔はエエって言えや!」 ホンマは空気読めやんなぁー。かー! っとか言いながら謙也はおでこを叩いた。私としては、そんなお前が残念だ。 このまま放っておくと私がどれだけ空気読めないかという話に突入しそうだ。それは避けたい、と思い私的に考えた謙也 が何故モテないのか? 話をすることにした。謙也にとってはいい迷惑かもしれないが。 「"浪速のスピードスターっちゅー話や!"」 「...俺そんな変な喋り方しとらんで」 「え、今のめっちゃそっくりやったやん」 「掠ってもないわ」 「いやいや、今のは一氏にも負けへんほど似てたで」 「アホか! 本人が似てへん言うてんねんから似てへんのじゃ!」 思惑通り謙也は私の話しに乗ってきた。 もう、私がどれだけ空気を読めないか、と言う話をする様子はなさそうだ。本当に扱いやすい奴め。 「モテモテな白石が憎いんか?」 「憎ないわ!」 「モテモテな白石に嫉妬か?」 「嫉妬らしてへんわ!」 「モテモテな白石に...」 「しつこい!!」 「そんなん言うてるけど、モテたいんやろ?」 「ぐっ、」 言葉が出てこない謙也は分かりやすい。本当に。 「正直に言ってみなさい。汝、忍足謙也はモテたいと思っているのですか?」 「...モテたい」 「そして白石が羨ましい、と?」 「羨ましないわ!」 「まったく、君も強情だな」 はぁ、やれやれ。と肩を竦めて外国人がよくやる、やれやれのポーズをしてみせる。謙也はそんな私を見て何か言いたそうだ ったけれど、諦めたように小さく溜息を吐いただけだった。そんな反応を返されると、逆に私がイラッとくる。 そんな私の心情など知らないだろう謙也は何やら急に背筋を伸ばし、いつになく真剣な表情をして私を見た。一体なんだ。 戸惑った視線を返すと謙也が、すぅーっと息を吸いこんだのが分かった。 「モテたい言うたけどな、不特定多数にモテたいわけとちゃうねん」 「...はぁ」 こいつは急に何を言ってるんだ。という私の心情が良く表れた返答だ。だが、そんな気のない私の返答を気にしていない らしい謙也は、依然真剣な表情を崩さずにいる。それから何故か緊張した様子で唇を噛んでから、決意したように真っ直ぐに 私を見た。 「お前にモテやな意味ないねん」 「...は、」 「何や! 何か文句あんのか!」 怒っている様に怒鳴った謙也の顔は真っ赤で、それが怒りのためか、照れのためかと考え、すぐに後者であると結論付けた のは耳までも真っ赤になっていたからだ。 驚きで私が瞬きするのも呼吸するのも忘れ、ただジッと謙也の顔を見ていると謙也は右手で顔を覆って「見せもん ちゃうで!」と声を上げた。だが、そんな事言われても視線を謙也から外す事が出来ない。 「...」 「...」 「...感想はないんかい」 謙也の最後の方の言葉はもごもごと口の中で喋っていたので、聞き取りにくかった。顔の赤みがさっきよりも少しマシに なった謙也が私の言葉を急かすように視線で訴えかけてくる。 「...びっくりするっちゅー話や」 「何やねんその返しは...言うとくけど冗談ちゃうからな!」 「...おぅ」 「返事だけはえらい男前やな」 そんな事言われても頭が混乱状態なのだ。ごちゃごちゃの頭の中を整理するために謙也の言葉をシンプルに一言で纏めてみる。 私にモテたい → つまり、謙也は私が好き ........謙也は私が好き...?! 「何や、顔真っ赤やで」 いつの間にか帰って来た白石が不思議そうに首を傾げる横で謙也がにやりと笑った。 (20100529) |