「今日はごちそうさまでした」

ぺこり、と頭を下げたに三郎は「あぁ」とだけ返事をし、学園までの道を歩き続ける。何の心の変化かの歩幅にあわせず に先を歩いていた三郎は今は比較的ゆっくりのペースでの隣を歩いている。先を歩かれるのも疲れるので嫌だが、隣を歩く のもそれはそれで緊張する、とは胸中で呟いた。
茶屋での料金は三郎が出してくれた事にも驚きだが、何よりも驚いたのは三郎が笑った事だった。あんな表情出来たのか、 といつもの三郎の笑顔と言えばにやにやした顔だったものだから驚いた。(にやにや顔は笑顔に分類されるのか疑問だが)
隣を歩く三郎はどこか機嫌が良さそうに見える。これなら尋ねても怒られたりしないだろうか? は今日一日疑問に思って いたことを口にしてみる事にした。

「そういえば、結局今日は何しに町に行ったんですか?」

背の高い三郎を見上げながら尋ねると、ギロリと鋭い視線が返ってきた。びくりとその場でが跳ねて驚くと三郎の視線は ますます鋭くなった。
何か気に触るような質問だっただろうか? 今自分が問いかけた言葉を頭の中で繰り返してみたが、別にどこも気に触る ものでは無かったと思うのだが...。自分に非があるとは思わないが、何故か三郎を怒らせてしまったらしいと、顔を強張らせるを見て 、三郎は大げさな程に大きなため息をつき、その視線をふいっと逸らした。

「...分からないならいい」

怒っているようなぶっきらぼうな言い方には、やっぱり怒らせてしまった!! と顔を青くした。





会話の無い学園までの帰り道をは気まずい思いでとぼとぼと歩き、三郎はそんなの様子を横目で見ながら歩いた。 もちろんは三郎が自分の事を見ているなんて思いもせず、鉢屋三郎によってどんな報復をされるだろうと考え震えていた。





学園に帰ってくると、はどっと疲れを感じた。このままご飯は食べずに布団で眠りたい。すでに眠い目を擦っていると、 三郎が忍たま長屋の方に歩いていくのが見えた。

「じゃあな」

それだけを言い、背を向けた三郎には慌てて髪に刺さったままになっていた髪飾りを引っこ抜き三郎の元へと走った。

「あ、あの! これ鉢屋先輩のじゃないんですか?」
「...あぁ」

振り返った三郎は納得した様子での手から赤い花の髪飾りを受け取り、に向き直った。目の前から真っ直ぐな三郎の 視線を受け、は身じろぎしたが「動くな」と三郎に言われ、ぴたりと動きを止めた。
一体何をするつもりなんだ? 警戒するを尻目に三郎はの頭を両手で固定させ、少しほつれてきている髪を手で撫でつけた。 その優しい手つきに思わず警戒を解いたは抵抗せずに大人しくする事にした。 三郎の手はどこまでも優しく、の髪を撫でる。一瞬、相手は天敵である事も忘れ、は心地よさに目を瞑った。
その時、髪の中に髪飾りが刺さる感触がした。

「え?」

は驚き、手で自分の頭を確認した。すると、やはり髪飾りがまた自分の頭にあった。
どういう事だと視線で三郎に問うと、三郎は目を細めほんの少し口元を緩めた。

「お前にやる」
「...ありがとうございます」

三郎の行動に唖然と目を開くを放って、三郎はそれじゃあな。とだけ告げ、次の瞬間には忍たま長屋の方に足取り軽く走っていった。
あっという間に見えなくなった三郎の姿が消えた方向をじっと呆けて見つめていただったが、視界で緑色が動いた事に よって飛び上がって木の陰に隠れた。
......もしや今の緑色は私の事をお仕置きしに来た中在家先輩ではないか?!
どきどきする心臓を抑えながら木の陰から覗いてみると「じゅんこー!」と半泣きな様子の伊賀崎孫兵だった。

まぎらわしい!













の贈り物













ほっと胸を撫で下ろすと愛する蛇の名を叫ぶ孫兵から離れた草陰から飛び出る三つの頭。
「ちょちょちょちょちょ!」
「興奮しすぎ」
「きもちわるいほどに」
「...辛辣だな...! けど、お前ら見てただろ?!」
「ここに座ってましたけど?」
「隣に居ましたけど?」
「腹立つな、その言い方! ...三郎はどこであのテクニックを学んできたんだ?!」
「さぁ?」
「経験?」
「あんなキザなやり方許せないっ!(ギリッ)」
「そう」
「あっそ」
「お前らつめたい!」
「そんなこと言われても...」
「それより早くじゅんこ探すの手伝ってやれば?」
「...やっぱ俺、嫌われてんの?」








(20100627)デートがしたかった三郎