※search the lightの続きです。



さて、帰るか。と荷物を持ってトレーニングルームを出ようとしたら右肩と左肩をがしっと掴まれた。
「行くわよ」
右耳にネイサンの低い声。
「ど、どこに?」
「どこでも、適当なとこ」
左耳にカリーナのひそひそ声。
「ボクお肉が食べたいー!」
いつのまにか正面にはパオリン。
ということで私は真っ直ぐに家に帰る予定を変更して“お肉を食べられる適当なとこ”に向かう事になった。


「で?」
「で?」
「へ?」

テーブルに案内され、みんなでつついて食べれるようなものを注文してウエイターが席を離れると待ってましたと 言わんばかりに訳知り顔でにやにやしたネイサンとカリーナがテーブル越しに近づいてきた。そしてどこから話が続いていたのか 全く分からないけれど話の続きを催促されている。意味が分からずに、首を捻りながら間抜けな声を出すとあきらかに 二人ともいらついたように眉間に皺を寄せた。
別に私は意地悪して話そうとしているわけじゃないのに!

「ハンサムとのことに決まってるじゃないのよ!!」
「バーナビーさん?」

そうそう、と頷く二人を見ながら私はウエイターが持って来てくれたソーセージを受け取りテーブルの真ん中に置いた。 すかさずパオリンが嬉しそうに「わーい!」と言いながらソーセージをフォークで刺した。私もお腹が空いていたので 何か緑色のものが練りこまれているソーセージを選び、フォークで突き刺して咀嚼した。
ふわっと口の中に広がった香りに緑色の正体がハーブだったことが分かった。おいしい。

「昨日のこと!」

何のことか分からずにただひたすらソーセージを咀嚼していると痺れを切らしたようにカリーナが言った。
さっきから私が食べているハーブの練りこまれたソーセージを食べていないパオリンに「これハーブが利いてておいしいよ」 と勧めるが首を振られた。「ボク、ハーブが好きじゃないんだ」「おいしいのに」「ちょっと! もうソーセージのことはおいときなさいよ!」 無視されて怒り心頭の様子のカーリーナに渋々私は食べかけのソーセージが刺さったままのフォークを取り皿の上に置いた。
そして“昨日”+“ハンサム”というキーワードから導き出された出来事を話そうとした。
...が、何でかすごくそのことについて知りたがってる様子のネイサンとカリーナがおもしろくて、もったいぶって両手を組んで腕を机の上に 立ててその上に額を乗せ、それっぽい雰囲気を出そうとしたらすぐさまカリーナに腕を崩された。 明らかに苛立っているカリーナの表情に刺激するのは得策ではないと判断し、私は渋々話すことにした。

「...昨日は大変だったよ」
「「何が?!」」

私の発した言葉に文字通り食いついてきたネイサンとカリーナの迫力に吃驚して唖然とすると二人とも少しバツが悪そうに しながら椅子に座ってくれた。
二人の声に一瞬、店の中がしんと静まり返った。その中で我関せず、パオリンは一心不乱にソーセージを食べている。 また他のお客さんたちが食事とおしゃべりを再開したのを見計らって口を開いた。

「ロッカールームから出たら何でかバーナビーさんがドアのとこで、こう...壁に凭れて腕を組んで...」
「ポーズとかはどうでもいいわよッ!」
「それで?!」
「それで、えー...もうこの時点からおかしいでしょ、バーナビーさんが私を待ってるなんて。そんじゃあやっぱり おかしくて...わけ分からんことを言ってるかと思ったら何か顔が赤くなって......あっ、そういえば私って汗臭い...? もしくは脂臭い...?!」
「臭くないから!」
「...ホントに? ...傷付くと思って気使ってるんじゃない...?」
「何でそんな疑ってんのよ! 臭くないって言ってるでしょ!」
「あぁ、よかった...」
「いいから、続き!」

先ほどからあまり会話に入って来ないと思っていたパオリンはお品書きに目を通していたらしく、めぼしいものを見つけてネイサンに見せている。 「ねぇねぇ、これも注文してもいい?」「いいわよぉ」「やったー」すごく和む空気が漂ってくるというのにカリーナは 全然和まないらしい。
ネイサンもパオリンと話してるときはにこにこしてたのに私に向き直ったら厳しい顔になった。
...なんで? 私なんかした?

「......えーと...それで、バーナビーさんが熱出てるみたいだったから私がバーナビーさんの車を運転して家まで送ってあげた」
「「え?」」

何故か固まった二人を放ってパオリンがさっき注文していた料理が運ばれてきた。テーブルの真ん中にそれを置いて さっそく食べ始めたパオリンに負けじと私も食べかけのソーセージを口に運んだ。というかお腹が空いてるのにさっきからあまり食べれてない。
「ていうかハンサム昨日元気じゃなかった?」「アタシにも普段どおりに見えたわね...ちょっと緊張してるふうではあったけど」 「それはまぁね...けど熱なんて」「顔も赤くなんてなかったわよぉ...」こしょこしょ話をする二人をぼんやり見ていると 「、これおいしいよ入れたげる」とパオリンが申し出てくれたのでお礼を言いながら皿を渡した。するとどうやら こしょこしょ話は終わったようで二人ともこちらに向き直った。

「それでどうしたの? 送ってあげてから」
「え? うん、熱は無いとか言ってたけどベットに寝かして朝になってから近くのコンビニでゼリーと風邪薬を買ってから帰った」
「...」
「...」
「何のゼリー買ったの?」
「ぶどうのゼリーだよ」
「ぶどうのゼリー?! いいなぁ、バーナビーさん...」
「今度パオリンにも買ったげるよ」
「ホントに?! やったー!!」

パオリンとの和やかタイムに自然と笑みが浮かぶ、ぶどうのゼリーでこんなにも喜んでくれるなんてパオリンはなんて 良い子なんだろうと思っていると、停止していた二人がハッとしたようにこちらを見た。

「えぇっ?!」
「ちょっとちょっと! 一晩泊まったっての?!」
「え、...うん...だってバーナビーさん一人暮らしだし一応なんかあったらと思って...」

何やら興奮しているらしい二人は一人は甲高い声を上げ、一人は野太い声を上げて「ちょっと! まさかのまさかじゃないのぉ?!」 「えぇー!!」とか二人で盛り上がっていたが、私の方をチラッと見て「けどだし何も無いわ」とか言って 興醒めしたようにため息を吐いた。...その反応、何かすごい腹立つんだけど。
私のムッとした顔を見て、二人は納得した様子で「やっぱりね」とか何とか頷きあっている。

「アタシ、ハンサムが不憫だわ」
「これに関しては私も同情する」

...何でか分からないけど人命救助(と言ったら大げさだけど)をした私が悪者みたいじゃないか。
パオリンがお皿によそってくれた何かの肉の塊みたいなのをフォークで刺して私は苛立ち紛れに口の中に放り込んだ。

「ぶっちゃけ、アンタはハンサムのことどう思ってるのよ」

急にネイサンの声のトーンが下がった。それでこれが真剣な話題なんだと理解できたけれど、その話題の内容に思わず 眉を寄せる。私がどう思ってる、の前に向こうがどう思っているかが私には重要だと思う。だって相手に嫌われてるって 分かっているのにその人のことを好きになれるかというと...そんな人あまり居ないと思う。博愛主義者の人とか そういう人ならありえるかもしれないけど、あいにく私は普通の人だ。

「どう思ってるも何も...私バーナビーさんに嫌われてるし...」

え! と意外そうに声を上げたのはカリーナだ。私の返答が意外なものだったらしく、口に運ぼうとしていたグラスの 動きを止めてこちらを見た。突然の停止によってグラス中の水が揺れている。
私としては、あんなにあからさまなバーナビーさんの態度に気付かないカリーナが意外だった。 ネイサンはやっぱりとでも言いたげに訳知り顔で頷いている。パオリンは相変わらず口の中に料理を運ぶのに忙しそうだ。

「まぁ、こんなに鈍いのが相手なのにあのやり方は逆効果よねぇ」

独り言のように落とされたネイサンの言葉の意味は分からなかったけど敢えて知ろうとも思わなかった。



a short rest...





(20111112)