その子を見つけたのは窓ガラスを隔ててだった。
俺はコンビニの中に居て、その子はコンビニの前を歩いていた。それが始まり。
けどその時は始まりがあるとは思わなかった。

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(一)
その日、誰が言ったのかは忘れたが帰り道コンビニに寄る流れになり、どうせ行くならファミマがいいと誰かが主張したので いつも寄るセブンイレブンには寄らずにファミマに行くことになった。いつもの道から逸れて辿り着いたファミマには あまり来たことが無かった。今まで帰り道にあるというだけでセブンイレブンを贔屓にしていたが、その他に贔屓にしていた 意味なんて無い。自動ドアが開いて中に入り、内装を眺めるといつもの店と当然違うところがあったが、大きな違いは無い。 各々で目的の場所に散らばっていくので俺は別に買いたい物もなかったので、雑誌コーナーに向かった。
雷蔵が飲料水のコーナーに向かう姿が見えたのでこれは結構時間が掛かると判断した俺はまだ読んでいなかった今週号の 雑誌を手に取った。すでに立ち読みしていた大学生風の兄ちゃんの隣に陣取りぺらりとページを捲る。
ぺらぺらと頁を捲って目的の漫画を探していると有線で流れている曲の中に来店を知らせる音が交じった。 今の時間帯の来店者は学生ばかりのようで、音につられて視線をやった方には俺らとは違う制服を着た男子高校生が2人居た。
視線をまた手元の誌面に戻そうとした途中、留めるつもりの無い所で目が留まった。
右方向から歩いてきた制服姿の女の子に目が吸い寄せられた。
ガラス張りのコンビニからは外の風景が丸見えで、誌面に戻ろうとした目がその子を捕らえて動きを止めた。特に女の子が目を引くようなことをしたわけじゃない。 普通に歩いているだけ...よく見る光景だった。けれど視線は彼女に吸い寄せられた。
女の子は俺の視線に気づくこと無く制服のポケットに手をつっこみ、何かを取り出した。小さい何かを両手で弄る様子に 袋を破っているのだと気付く。すぐに包装は破れたらしく袋ごと口に運んでいる。口から手が離れた後、右のほっぺたが 小さく膨らんでいるのを見つけて思わず笑う。
女の子は俺がコンビニの中から行動の一部始終を見ていることに気付く様子は無く、飴玉を口の中で転がしている。 手の中で飴の入っていた包装紙を丸めているのを見て、もしかしてそのまま手を広げるのだろうかと考える。 時々何の戸惑いも無くゴミを捨てていく奴がいるがあれは見ていて気持ちのいいものじゃない。 自分が出したゴミなんだから自分で処理しろといつも思う。けれど彼女は俺の勝手な想像と同じ行動はしなかった。
突然前を向いていた顔をこちらに向けたので思わず盗み見ていたことがばれたのかと、体が跳ねた。
そんなはずはない、とは思いつつも女の子がそのまま小走りでこちら側に走って来たので焦った。咄嗟に手に握っている雑誌を持ち上げて顔を隠す。
だが俺の心配は杞憂に終わった。
そろっと目だけ覗いて様子を伺ってみるとその子は俺に気付く事無くコンビニに設置されているゴミ箱に包装紙を捨てて いるとこだった。ホッと息を吐きながら、雑誌を元の位置に下げた。その子は結局コンビニの中から俺が見ていることに気づかずに、体の向きを元の方向に修正した。が、 途中で何かに気付いたように立ち止まったかと思うとその場に屈んだ。そしてまたこちらに向かって今度は歩いてくる。 その手にさっきまでは無かったコーヒーの缶が握られているのを見て吃驚した。
女の子はその落ちていたコーヒー缶を先ほどと同じようにゴミ箱に入れた。どこか満足気な口元が印象的だった。
俺に行動の一部始終を見られていたとも知らず、その子は何事も無かったように歩いていった。
結局俺は読もうと思っていた漫画を読むことが出来ずにコンビニを出た。
その出来事はその日から俺の頭の片隅に居座り続ける事になった。




(二)
何となく俺の中でいつものコンビニの位置づけがセブンイレブンからファミマに変わった。
本当に何となくで別に意味は無い。あの日の帰り道いつもとは違う中道を見つけ、そこを歩いてみると見知った道 に辿り着いた。その事実に気付いた俺はいつものコンビニをファミマに変えることにしたのだ。 というかだ、こっちの中道を通った方が家までの距離が近い気がする。...多分。いや、絶対。
それなら近道を通るだろ、普通。わざわざ遠回りなんかしないだろ、普通。
普通の人ならそう考えるだろうから、別に俺は不純な動機とかそういうものは一切持ち合わせてない。
いつもとは違う場所で別れようとした俺に三郎がすぐさまつっこんできた。

「なんでそっちから帰るんだ?」
「や、そこのファミマに行こうと思って...」
「...」
「そろそろ俺もセブンは卒業かな?と思ってて、ハハハ...男はやっぱファミマだろ!ってな...」
「...」
「...や、まぁ特に意味は無いんだけどな!」

三郎は変に勘がいいので何か気付くかもしれないと思うと汗がだらだらと流れてくるのを感じたので、俺は早々にその場を離れる事にした。 その日から三郎は何も言わないが何か掴まれてるんじゃないかと思うと気が気じゃない...。 いや! 別にやましいことなんか何も無いんだし、三郎が掴むものは何も無いはずだ。いや、それよりも何よりも俺は近道を通っているだけだ。 三郎につっこまれた時のために俺は一度時間を図って、二つの道を比べてみることにした。
結果は...やはり俺の感覚に狂いは無かった! 例え一分の差だろうと、近道は近道だ。

「俺がこっちの道に変えた本当の理由言っとくわ」
「は?」
「こっちの道のが近いんだよ。やー、今まで気付かなかったけど損してたわー」
「聞いてねぇよ」




(三)
何か飲み物でも買おうと帰り道、最近贔屓にしているファミマに入り、飲料水コーナーに青いパッケージのボトルを 手にとって会計してから早速駐車場で買ったばかりのそれを飲んでいると、道路を挟んだ目の前のスーパーの入り口 から見覚えのある女の子が出てきた。キャップを閉めながら目を凝らすとその女の子は手に持っていたスーパーの袋から 今買ったと思われるお菓子か何かの袋を取り出した。パッケージを破る仕草に頭の片隅に居座っていた記憶が飛び出てきた。

「あ」

思わず声を上げたものの誰も俺のことなんて気にしていない。もちろん道路を隔てた先に居るあの子にも気付かれること無かった。 あの子だ。また会えた。
一方的な知り合い。なのに俺はこの偶然がうれしかった。
あの子は飴玉と思われるものを口の中に入れて、そのまま前回と同じ方向に歩いて行った。異様に片方だけ膨らんだほっぺに今日 買った飴玉は大物であることが窺い知れた。ぽこっと膨れ上がったほっぺがおかしくて俺は帰りの道中、笑いを堪えながら歩いた。


(三.五)
どうやらあの子はコンビニ派ではなくスーパー派であるらしい。
何度か見かけた姿はいつも道路を挟んで向かい側を歩いていて時々気まぐれのようにスーパーの中に入っていくのだ。 あの日は確かにこちら側に居たというのにそれから一度もあの子はこちら側を歩いていない。
気まぐれだったのか何なのか俺には分からない。俺がそれを知る術はない。制服から見て近所の女子高の生徒であることと、 コンビニではなくスーパー派であること、飴が好きなこと。それから空き缶を拾っていたこと、それぐらいしか知らない。
そろそろ車がライトを点け始めた時間帯。眩しい光りが俺を照らして去って行く。
車が行き来する道路が俺には大きな川のように思えた。
向こう岸はとても遠い。




(四)
廊下の向こう側からすごい勢いで走ってくる影を見つけた俺は脊髄反射でサッと下を向いた。
「いけいけどんどーん!」と叫んでるところからして誰であるかなんて考えずとも分かる。その上にその人物は手に 白い球体を持っていた。目を合わせたら強制的にグラウンドに召集される可能性が高い。
横目で周りを見てみれば全員同じように視線をどこかにそらしている。考える事はみんな同じだ。
さっさと通り過ぎてくれ...! という俺たちの願いは空しくも成就しなかった。七松先輩は俺たちの前で足を止めてしまった。

「おっ!いいところにいたな! バレーをしようとしてるんだがお前らもどうだ?」

どうすんだ!声掛けられたぞ! 視線で雷蔵に三郎に兵助に勘右衛門に...順に問いかけるもあろうことかどいつもこいつも 視線をそらしやがった。位置的に見て七松先輩の正面に居るのは俺だ。貧乏くじを引いたとはこのことだ。

「...あっ、七松先輩。バレーですか? えぇと、ちょっと次移動なんで...」
「そうか! 残念だなー」

意外にもあっさりと七松先輩は引き下がってくれた。ホッと息を吐くと、同時に隣の雷蔵も息を吐いていた。 たいして残念そうでもない七松先輩はバレーボールを両手の間でお手玉するように遊んでいたのを抱え直して また走って去ろうとしたが、何か思い出したのか急停止をして振り返った。情けないがびくっと体が震えた。

「竹谷! そういえば昨日女の子にお前のことを聞かれたぞ!」
「...えっ、」

俺が声を上げたとほぼ同じタイミングで「え!!」と四人分の驚いた声が聞こえた。
そして今まで知らん振りしてたくせに三郎が前に出てくる。

「七松先輩、失礼ですが本当にこいつのことについて聞かれましたか?」
「竹谷違いじゃないですか?」
「おい! 失礼だな!」

まるで俺の事を知りたがる女の子なんてこの世には居ないとでも言いたげな口ぶりをする三郎と勘右衛門に怒ってみせるも 自分でも本当言うと信じられない。勘右衛門が言うとおり竹谷違いとかじゃないだろうな? だが俺たちの半信半疑の視線を受けても七松先輩は自信満々に頷いた。

「いや、絶対この竹谷だ。髪がぼさぼさのぐちゃぐちゃと言っていたからな!」
「...」

「ブッ!」四人分の吹き出す音が遠くから聞こえた。俺はというとまさかの上げて落とされるという攻撃に頭が停止した。 ...いや、これは上げて落とされるなんて生易しいものじゃない。上げて叩きつけられたの方がしっくりくる。
精神攻撃に放心する俺の背中を擦りながら雷蔵が「ゆっくり息をして」とか宥めるように言っていたが俺の精神的ショックは結構大きい。 悪いが深呼吸でどうこう出来るもんじゃない。「豆腐を食べたらきっと心安らぐんじゃないか?」兵助がさもいい考えだとでも 言いたげに俺を挟んで雷蔵に話しかけている。俺はその見ず知らずの女の子に向かって心の中で叫んだ。
俺だって好きでこんな髪質になったんじゃねぇ!
友達が精神的ショックを今まさに受けていたというのにさすがというか三郎はまるまる無視して、七松先輩に話しかけている。

「どこの生徒でしたか?」
「あそこの女子高だ」

七松先輩の指差した先にある女子高...というよりもここらへんには女子高は一つしかない。
おのずと導き出された答えに、頭の中に一人の姿が思い浮かんだ。まさか...なんて、都合がいい想像に慌てて頭を振る。
三郎達も俺が考えている女子高の名を口にした。それに七松先輩が頷く。
まさかまさか...俺はどうしても淡い期待が燻ぶるのを止められなかった。
俺に都合がよすぎる。そんな展開ありやしない。




(五)
だが俺の期待は良い方向に裏切られる事になった。
いつも通り帰ろうといつものメンバーで談笑しながら校門をくぐったところで思いがけず呼び止められ、振り返ってみれば七松先輩だった。 嫌な予感がしたがそれを表情には出すまいと隠すために口角を吊り上げるが、すぐに俺はほっぺたの筋肉の力を抜いてしまった。 七松先輩の前に立っている姿は見覚えがある気がした。記憶の中の姿と重なっているように見えるが、背を向けているために こちらからは顔を確認する事が出来ない。
けど、まさか...。
隣で兵助と勘右衛門が何か言っているが俺にはちゃんと聞き取れなかった。ただ一心にその後姿を見つめていた。
もしかして、いや、けど、まさか。
捨てきれなかった淡い期待がみるみるうちに膨らむ。

「この間言ったお前のこと聞きにきてた子が来てるぞー!」

気分が高揚するような、体の中の血が熱い、変な感覚だ。

「こっち来いよー!」

七松先輩のその声が合図だった。俺は気付けば走り出していて...慌てて振り返り、深くを知らない友人達に向かって先に帰っててとだけ叫んだ。

何度も繰り返した“まさか”にすでにその時、俺は確信を持っていた。目の前の後姿は間違いなくあの子のものだ。 俺が来たことで逃亡しようと足を踏み出した姿に手を伸ばすのを躊躇していると七松先輩が簡単に手を伸ばして捕まえた。 ナイスアシストだが、俺が出来なかったことを簡単にやってのけた七松先輩に心中複雑な気分で居ると先輩の腕の中で力が抜けたのを見た。

「聞きたいことがあるなら本人に聞けばいいだろ?」

そう言うと何故か口の中にあんぱんを放り込んだ七松先輩に無理やり体を反転させられたあの子は、だけどまだ顔を上げようとはしない。
小さく縮こまってしまっている姿を見下ろしながら俺は待ちきれない子供のように心の中で早く早くと顔を上げるのを急かしていた。 だが、急く俺の心とは裏腹に頑なに顔を上げようとしない。俺は緊張で体ががちがちになっているのを感じた。 だって、俺のことをわざわざ聞きに来たってことは二度目のまさかがあるかもしれないってことだ。
そう考えると、早く顔を上げて欲しいとは思いながらも、やっぱり上げなくていいなんて正反対の言葉が同時に頭に浮かんだ。 七松先輩はこの普通とは言えない光景を前にいつも通りだ。あんぱんを咀嚼しながら袋をぐしゃぐしゃに丸めてジャージのポケットに突っ込んでいる。

「じゃあ俺はまた走ってこよう。あんぱんありがとうなー」

何で七松先輩があんぱんを貰えるんだ!? 七松先輩に対しての当然の疑問は、けれどすぐにどこかに吹き飛んだ。 あんなにも頑なに顔を上げようとしなかったのに顔を上げたからだ。
縋るように七松先輩へと視線を送っている目に俺は映っていなかった。
それを気に入らないと思う余裕は無かった。ただただ瞬きも忘れていつも遠くから見ていたあの子を見つめていた。 しばらくの沈黙が漂う中であの子の黒目が俺を映したのを見た。

「...ど、どうも」
「...ども」

ぎこちない、と思った。けれどもこれがさんと初めて交わした言葉だ。
多分俺はこの時のことをずっと忘れない。戸惑ったようなぎこちない言葉に、伺うような視線、空気はどちらかというと張りつめていた。 だけどこれがあの子と初めてのちゃんとした出会いだった。

向こう岸へは意外なところから橋が架かっていたようだ。




(六:現在)
あれからさんと俺の関係はとりあえず友達ということになっている。だけど俺の気分的には友達よりもっと先に進んでるもんじゃないかとか思ってる。 (俗に言う、友達以上恋人未満ってやつ)というか、そう思いたいのかもしれない。
デートじゃないけど、デートみたいな(...現にさんも電話でそう言ってたし!)時間をこの間の放課後過ごした。 そのことが俺に変な自信を持たせていた。


自販機で買って来たパックの牛乳を飲みながら震えたケータイをポケットから取り出す。画面にはメール受信を告げる文字が表示されている。 誰だ? 当然とも言える、疑問にも満たない言葉を口の中で呟く。片手でケータイを操作しながらもう片方に握っている パックから牛乳を吸い上げる。

メールの送信者の名前を見て、喉が一瞬ひくっと動いた。俺の一連の行動について周りは気付いていないらしく、 昼休み恒例の雑談を繰り広げている。それを横目で確認して俺は何気ない様子を装ってメールを開いた。


From:
Sub :こんにちは
−−−−−−−−−−−−
突然ごめん!
下心で私に優しくしてくれたの?

-END-





「ブッ!」

メールを読んで、飲んでいた牛乳が変なとこに入った。急に咳き込みだした俺に、周りの感心はこちらに向けられる事になる。 苦しむ俺に興味は無いらしく、全員の視線が俺の握っているケータイへと向いている。 こんなに苦しんでるのに一人ぐらい心配してくれよ...。

「なにが書いてたんだ?」
「ゲホッ...別にゴホッ、何でもッゲホッ」

兵助が不思議そうに、視線は相変わらず俺のケータイへと向けたまま尋ねてきた。
それに咳き込みながら慌てて何でもないと答える。こいつらにあんなメール読まれたら何て言われるか...! ていうか、何でさんはこんなメールを...? 俺って下心丸出しみたいな顔してた?! ヤバイ!! 下心丸出しってどんな顔?! 下心ってそれもどういう意味の下心?!
頭の中に次々と湧き上がる疑問を一つも片付けることが出来ず、むしろ増えていく疑問にただ焦っていると背後からケータイ奪われた。

「どれどれ...」
「わー!!やめろー!見るなー!」

勘右衛門に掻っ攫われたケータイを急いで取り返し、俺はひしっと抱きしめた。あまりの俺の必死さにどいつもこいつも 驚いた表情をしているが、これを見られるわけにはいかないんだ! 厄介な奴らが放心している今のうちに俺は素早くメールを返した。


To :
Sub:こんちは
−−−−−−−−−−−−
え?どうした?

-END-





送信してすぐにケータイが震え、メールを受信したことを告げた。俺は徐々に雑談している輪から離れながらメールを開いた。


To :
Sub:Re;こんちは
−−−−−−−−−−−−
何か友達が聞けってうるさくて
ごめん、変な事言って(*´∀`*)
忘れてー

-END-





友達が? 何だ? まさか友達は俺が下心丸出しの顔でさんと話してるところを見たのか? 見られたのか?!  知りたいところだがまさかそういう風に聞くわけにもいかずに返信に悩む。
下心なんかあるわけない! と言うのも白々しい気がするし、実際問題俺はさんに対して下心を持っている。 けど持っているといってもそういういやらしい感じのじゃないけどな! ちょっと仲良くなりたいなーぐらいのものだ。
...いや、ちょっとじゃなくて、すっごい仲良くなりたいと思わないでもないけどな...。
それに何よりこの間、さんは俺を騙していたと言って何度も申し訳なさそうに謝ってくれた。そんな誠実な相手に 対して嘘をつくのは気が引ける。うんうん頭を悩ましていると突然耳元で声が聞こえた。

「んなもん正直に下心アリアリですって送ればいいだろ」
「ぎゃー! お、おまっ、さぶろっ、...お前っ、いつのまに!!」
「それって、この間ハチのこと聞きにきてたって子か?」
「そうだよ。ハチも意外にやるよね」
「なっ、何で知ってるんだよ!!」

いつの間にやら俺の背後へと回り込んでいたらしい奴らに驚きを隠せずにいると、兵助の質問に何故か勘右衛門が答える。 そのことにまたしても驚き、全てを知られているような気がした俺は血の気が引く思いだ。だというのに勘右衛門 は何も答えずににこっと笑っただけだ。無邪気に見える笑みに背筋に冷たいものを感じていると、その背後で三郎は ニヤニヤと笑っている。こいつら...! どうやって調べたか知らないが全て把握されているらしい。

「それでハチは何て返信するの?」

今まで状況を見守っていた雷蔵の言葉にハッと我に帰った。そうだ、返信しないと。
俺はこいつらに覗かれないよう注意を払いながらメールを打ち込んだ。
...嘘は言わない。



.
.
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竹谷くんと晴れてお友達になった私はこの間のデートみたいな...けど実際は竹谷くんに今までの詳細を話した時の ことを友達に話していた。

「竹谷くんってすげぇ優しい。多分前世はマザーテレサ」
「ねぇよ」

竹谷くんの心の広さに感心しながら話を締めくくった私に、友達は納得がいかないとでも言いたげに眉を寄せている。え、なに、その反応? そこに最近機嫌がすこぶるいい、私と竹谷君がこうなった切欠を作った咲が普通に会話に入ってきた。 今までスマホを弄っていたのにちゃんと話を聞いていたらしい。

「竹谷くんはのことが好きだったから優しかったんじゃない?」
「...は? そんなんじゃないし! 竹谷くんそんなんじゃないし! 誰にも平等に優しいんだし!!」
「お前は何で竹谷くんのことを神聖なもんだと思ってんだ。竹谷くんだって男なんだから下心があったに決まってるでしょ」
「そんなわけないし!! そっ、それに私のことを...す、好きだったって一体いつ?!」
「一目惚れとか? わかんないけどそうじゃないかな?って思ったの、ね?」
「そうだね、私も思ったもん」
「もー、何言ってんの〜この思春期ども!」

心底呆れた調子で答えるものの私の心臓は期待するかのように少しだけ脈打つ速度を上げていた。
そんな私の様子に向こうもついムキになったらしい。私を挑発するような言葉を投げてきた。

「じゃあ竹谷くんに聞いてみ?」

そして私はあっさりとその挑発に乗ってしまった。

「よっしゃ、いいよ。聞いてやるよ。今からメールしてやる!!」
「え? 今?」



To :竹谷八左ヱ門
Sub:Re:Re:こんちは
−−−−−−−−−−−−
なかったって言ったら正直
嘘になる、かも

-END-





「!!」
「わー、竹谷くんって意外に大胆」
「ほらやっぱ私らの言った通りでしょ」
「う、うるさーい! こんな、こんなこと...! ど、どう返信したらいいの?!」











(20120414)