前回までの私!!
特に好きでもないのに心が弱っていたから告白を受けて付き合った彼氏に別れを告げるが、それを受け入れてもらうことは出来なかった。

今回の私!!
彼氏と別れる(目標)


そう、文字にしてみれば私がすべきことと言うのはとてつもなく簡単なように思える。
彼氏と別れる。この一言で片付いてしまうのだ。
なのに私の胃はそのことを考えるときりきり痛み出す。このことからもどれだけ難しいミッションなのかわかってもらえると思う。
だって一度別れてほしいと伝えたというのに、彼は何事も無いかのような態度だし...。 (あの日一緒に帰るのは断ったものの朝も普通に挨拶されたし、連絡だってマメにくるのだ。課題でたんだけどむずかしー今度一緒に勉強しねぇ?みたいな。 「なんっ、えっ?!」とか、間抜けに呟きながら何度も送られていた文章を読んでみたけど、文字が変わることは無かった。)
彼は鋼の心を持っているのかもしれない。そういう風に見れないなんていわれたらものすごく落ち込みそうなのにそれを感じさせない。 いつも笑顔だし優しい、それに私を見つけたらパッと笑顔になってすごく嬉しそうにする。私ひどい奴なのに...。 いい人であることがわかるほどに申し訳ない気持ちが胸の中で大きくなっていく。私ひどい奴なのに...!!
何度か言おうとしても、タイミングが悪いのか話題が変わってしまったりするので未だに二度目の別れ話はできていないのが現状だ。


そしてそんな現状を省みた私の今の気持ちを一文で表わすのなら、 ”もう、なんかそこまで私のことを好きになってくれる人もいないと思うからこのままでいいような気がしてきた...。”である。
そう...私はとてつもなく意思が弱いのだ。自分でも驚くほど。(1つ言い訳させてくれるなら私が好きな人である森山には好きな人が居て、私は眼中にもないという状態であるということも考慮して欲しい!)
ここまで私のことを好きになってくれる人は、後にも先にもこの人だけなんじゃないだろうかと思えてくるのだ。
実際、何でそこまで私のことを好いてくれているのか自分でもわからない。
だって、付き合って一ヶ月も経たないうちに「やっぱ友達としか思えない」とか言い出す女なのに...そう考えると、彼は何て心が広いのだろう、とさえ考えてしまう。 きっとこの先一生分の運をここで使い果たしてしまったのかもしれない。だってここまで私のことを好きになってくれる人は地球上で彼一人しかいないと思う。(私はひどい女だし)

「多分私のことをここまで好きになってくれる人もいないと思うんだよね...」

自分で言ってて悲しくなってくるが、紛れも無い事実のような気がした。
今まで生きてきた十数年でそれを決め付けのは早い、と指摘する人もいるかもしれないけど、自分のことは自分がよくわかっている。 なので、私のことをそこまで好きになってくれる人と言うのは、この先一生現れることが無いと思う。(だって私ひどい女だし...!!) 「70億分の1の人なんだと思う」70億とか途方もない数でよくわからないけどその中で私のことをここまで好きになってくれる人は多分彼以外に居ないだろう。だって私ひどい野郎だもん!!自分の言葉にこれ以上ないくらい説得力があるような気がして落ち込む。

「そんなことないだろ」

森山の声は怒っているかのようで、私はぼんやりと何を映すでもなく漂わせていた視線を目の前の森山に移した。
森山は静かに怒っていた。不快なのを隠す様子も無く眉を寄せている森山はいつもと違って迫力があって少しひやっとした。
私が彼に別れ話をしていたことを偶然にも聞いてしまった森山に「で、言ったの?」と話しかけられたことによって私は心情を吐露することになった。
諦めにも似た境地で、今を受け入れようとするある意味前向きな私の決意”このまま彼と付き合っていく”というものは、森山を怒らせてしまうものだったらしい。

「なんでそんな自己評価低いんだよ」
「え? いや、結構自分のことわかってると...」
「わかってねぇよ」

いつになく語気の強い森山に怯む。何よりもそんなに怒っている意味が分からない。
あの日、彼氏に別れを告げて失敗する場面に偶然にも居合わせた森山に必死でキスをしてしまったことは私の意思ではなかったと伝えた。 あまりにも必死だったし、きっと勘の良い森山のことだから「何故こんなにも必死に……ハッ! まさかアイツ俺のこと……!!」 ってことになったのだと思っていたのだけど、実際はそんなことはなかった。
ちょっと少女漫画を読みすぎていたのかもしれない。 あれだけのことで自分のことを好きと推理しろなんてちょっと無理すぎる。名探偵でも無理であろうことを森山がわかるわけがない。
そうわかっているのに、あれからいつもと何ら変わりのない態度で話しかけてきた森山に少しがっかりした。 森山のことを好きだってことを知られたくないはずなのに、気づかれなかったことに不満を抱いている。 だけど森山の視点で考えれば、友達以外の何でもないと思っている私が相手なのだから、そういう選択肢さえ浮かばないのかもしれない。 そう考えると妙に悟りを開く心地になり、ある意味前向きな思考になったのだ。
結果、元彼になるはずだったのに今現在も彼氏であるらしい彼に、気持ちが逃げてしまう。
私の気持ちを森山は一生理解できないだろう。それどころか考え付きもしないだろう…。と考えて、気持ちがどん底に落ちた。
そこで私が一度別れようと言ったにもかかわらず、諦めることなく好いてくれている様子の彼氏に何だか感動さえも覚えた。というのが現状の私である。

「じゃあ私にいいところってある?」
「ある」
「例えば」
「まず、かっ、……」

そこまで言うけど、私にいいところなんてあるか? と尋ねてみれば、予想外に食い気味に森山の返答があった。
言えるものなら言ってみな、って態度で返したものの、正直どきどきしていた。
森山は喧嘩を売られたかのように不機嫌な顔で何かを言おうと口を開いたが、言葉に詰まったように中途半端に口を開けて固まった。

「かっ?」

続きを促すつもりで森山の言葉を繰り返してみるが、森山は視線を反らしたかと思うとそのまま口を閉じてしまった。
なに?! 「かっ」ってなに?! まさか!!! ……かわいいとか?! うわああああああああ!!!!
一瞬でそこまで考えて舞い上がってしまったが、森山はそれ以上何も言わないどころかなんか斜めを向きながら咳を始めた。 それを見ていて舞い上がった頭が冷静に戻った。
え、ただ単に喉が絡んだ的な?「かわいい」じゃなくて「カーッぺ!!!!」って喉の調子を整えようとしたとか……?
森山がそんなことしているのを見たことは無いし、これからも見たくはないけど……。
背中を丸め、口を押さえて空咳を繰り返す姿に妙に納得してしまった。
あまりにもな勘違いに意識が遠くなりかけたが、心優しい私は持ち歩いていた飴を森山にそっと差し出してあげた。

「え? さんきゅ……」

それを何か不思議そうに受け取った森山は間違いなく馬鹿だと思う。

「いいえ、じゃあ私友達のとこに行ってくるね」

もうこれ以上話もないだろう、と席を立つ。友達は売店に行ったので、きっとジュースを飲みながらベンチで駄弁っているだろう。 そこに私もいたはずなのに、森山に呼び止められたのでここに居たが、それもないなら友達のところに行こうとした。 が、腕を引っ張られてそれは叶わなかった。見れば森山が私の腕を掴んでいる。

「いやまだ話は終わってないだろ」
「って言われても……」

話を中断させたのは間違いなく森山なので、私としたらそんなことを言われても…って感じだ。 だというのに森山は気を悪くしたように眉根を寄せ、椅子を指さした。もう一度そこに座れということらしい。
渋々椅子に座れば、真っ直ぐ森山がこちらを見つめてくる。じっと見られているという状況に恥ずかしさを覚えるが耐える。

「お前はいい奴だ」
「……は?」
「だからそんな自信失くすな。あいつともちゃんと別れろ」

いや、好きな人に「いい奴」なんて言われたら望みはゼロみたいなもんじゃん。それで自信失くすなって言われても無理だ。

「もういい? 私行くね」
「え、おい」

戸惑ったような森山を置いて、さっさとその場から離れた。
森山、私のことを励ましたかったのかもしれないけど逆効果だよ。
言いたかった言葉は私の我が儘でしかないものなので、口にすることはできなかった。






(20200607)続きます