「シトロンの足枷」の続きです。




耳に穴を開けるのは、思っていたよりもとても簡単だった。
買ってきたピアッサーを使い、あらかじめ氷を当てて感覚を麻痺させていた耳に穴を空ける。
がしゃん、という物々しい音がなったと思うと、もう耳には穴が開いていた。
実際にやってみるまでは体に穴を空ける、ということに恐怖心さえ抱いていたというのに、実際に穴が開いた今となっては 何をあんなに怖がっていたのか? と、少し前の自分が馬鹿に思える。
そうして空いた穴には、ピアッサーに付属されていたピアスをそのままにしておいたのだけど、少し穴が安定したように感じてから 黄色い石のついた、シンプルだけどかわいいピアスに交換した。
このピアスをもらったときに入っていた箱の中に小さな説明書が入っていたのだけど、それによるとこの黄色い石はシトリンというらしい。 名前も何だかおいしそうな響きをしていたので、私はますますこのピアスが気にいった。
だけど、ピアスを見るたびにバレンタインのお返しとしてこれをくれた人の顔がちらついた。
その度に私は罪悪感を覚えるのだ。

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さん」

始まる前は十分あると思っていた春休みはすぐに終わってしまい、すっかり新しいクラスにも馴染んできた頃。
帰ろうと友人たちと玄関ホールで他愛無い話をしていたところで突然名前を呼ばれた。 反射的に声が聞こえたほうに顔を向けてみれば、そこにいたのは黄瀬くんだった。
黄瀬くんとはクラスが離れた今、以前のように気軽に話をすることはなくなったと言っても間違いじゃない。 顔を合わせれば挨拶をすることはあっても、クラスが離れたこともあって顔を合わせること自体がとても少ない。 なので、こうして名前を呼ばれても本当にそれが自分に向けられてのものなのかわからなかった。
反応が鈍い私に、黄瀬くんはもう一度「さんっスよ!」と声を上げた。 そこでようやく「あ、私か」と合点がついた。
友人たちが「どういうこと?!」でも言いたげな視線を向けてくるものの、私としても何で呼ばれているのかわからない。 わからないという意味を込めて首をかしげてから黄瀬くんの方へと足を進めた。

「あ、ちょっと時間かかるんっスよ! ...ごめん、先帰っててもらっていいっスか...?」

柔らな物言いと申し訳なさそうな表情をしながら謝った黄瀬くんに、こちらを凝視していた友人たちは慌てて首を横に振って「いえいえ!」とか、調子よく答えていた。 「さん借りるね」と、唇に弧を描いた黄瀬くんが言えば「どうぞどうぞ」と私は消しゴムか何かのように気軽に快く貸し出されてしまった。 黄瀬くんのイケメンスマイルにすっかりやられてしまったらしい。 いつもとは違う余所行きの笑みを浮かべた友人たちに手を振り返してから改めて隣に立つ黄瀬くんを見た。 久しぶりに見る黄瀬くんの顔は、やっぱりとても高いところにあった。

「久しぶりっスね」
「あ、うん。クラス離れちゃったからね」

こっちを真っ直ぐ見ながら話しかけられ、私は一瞬言葉に詰まってしまった。それを誤魔化すように視線を反らしながら、普通の態度を心がけた。 そうして自分で言い聞かせておかないと、少し忘れかかっていた罪を思い出してしまった所為で挙動不審になってしまうからだ。 わざわざ呼び止めてまでする話とは一体何なのか? そう考えると自ずと私が黄瀬くんに対して働いてしまった無礼で罪深い行為しか導き出すことが出来ない。 というか、私と黄瀬くんには特に親しい仲というわけではない。その上、部活が一緒というような共通点があるわけではない。 唯一の共通点であったクラスメイトという立場は、今年のクラス替えをした際になくなってしまった。
そこで導かれる答え......それは、バレンタインの時のことだ...。
今更そんなことを掘り返してくるだろうか? と思ってしまうのは私が当事者で加害者だからだろう。
被害者の立場からすればそんなことは関係ないものだ。

「うちの学校大きいからなかなか会わないっスよね」

「そうだね」と、自分でも気が抜けているような返事だとは思いながらも、一応の相槌をした。
早く本題に移って欲しいような...移って欲しくないような...そんな微妙な気持ちだ。
さっさと終わらせてしまいたいのに、一生始まって欲しくない。
運動会のリレーに出る時のような気持ちだ。バトンを受け取る前、構えているときのどきどきはらはら感。 走るのが得意とは言えない私はいつもあの時間が嫌いだった。

「ちょっと待っててもらってもいいっスか? 鞄教室に置いてあるんで」
「...え? あ、うん」

...早く、早く止めを刺してくれ!!
心臓に刃先を当てられて、傷がつくぎりぎりのとことで止められているかのような状況に私は心の中で叫んでいた。 心の準備が出来たとかそういう問題ではなく、ただただ早く止めを刺してさされて楽になりたい、という自分勝手な気持ちだ。 だけど黄瀬くんはすぐには止めを刺してはくれなかった。鞄を取りに行くといってそのまま教室がある方向に走っていってしまったのだ。 生殺しされている時間が長くなった上に、一人になったことで私の頭は動き始めた。
バレンタインのことを怒っているだろうか? と考える一方で、どうにか楽天的に考えたくて、大したことじゃないかもなんてことも考える。 だけどあらゆる可能性を考えても、黄瀬くんが私にする話なんてバレンタインのこと以外に思いつかない。 これはもうあのときにすることができなかったお詫びをするしかない...。
ドッドッドッと激しく心臓が動き続けている。人は死ぬまでの脈数が決められているいうことを唐突に思い出した。 私の寿命は今少しずつ減っているのかもしれない。

「ごめんっ...」

パッと声のしたほうを見てみれば、息を荒げた黄瀬くんが立っていた。さすがに教室から玄関ホールを往復したのだと息が上がるらしい。 私を待たせたことについてだと思われる謝罪に首を振って答え、ここからどうするのかを考える。
黄瀬くんはきっと部活があると思われるので、更衣室に行くまでに話をしようということだろう。
それならそこまで時間がかかるわけではない。どういう用事で引き止められたのかまだわからないものの、部活より優先させるとは思えなかった。 そう考えて少し気持ちに余裕を持たせようと思ったものの、その作戦はうまくいかなかった。 お互いに靴に履き替えて歩き出したものの、黄瀬くんから口火を切る様子が無い。 ちらっと横目で盗み見た黄瀬くんは、これから怒ろうとしている人の表情とは少し違うような気がした。
そのとき、前を見ていた黄瀬くんの瞳が突然動いてばっちりと目が合ってしまった。慌てて視線をそらすものの、 どう考えても今の反応は不自然だと思い、どっと背中に汗が吹き出した。
まるでやましいことでもあるかのような反応だ...。(実際やましいことがあるからなんだけど...)
だけど黄瀬くんは追求してくるなんてことは無かった。沈黙が余計に重くなったのを感じながら、黄瀬くんの足の動きに合わせて自らの足も動かした。

「あの、」
「はいぃっ!」

ずっと無言だったのに急に黄瀬くんが声を出したので、びっくりして思わず大きな声を上げてしまった。
目を丸くして、だけどすぐに笑い声を上げた黄瀬くんの反応にたまらない恥ずかしさを覚えた。それと同時に訝しげな視線が 先を歩いていた女の子から向けられることになってますますいたたまれない。 そうしてようやくとっくに部室棟があるところが過ぎてしまっていることに気づいた。

「あれ? 黄瀬くん部活は?」
「言ってなかったっけ? 今日は休みなんスよ」
「お、あっ、そ、...そうなんだ」

今日は部活が休み、という衝撃的な言葉が黄瀬くんから発せられ、動揺のあまりどもってしまった。 じゃあ私の予定は狂ってしまったことになる。
部活棟に行くまでの時間で話は終わると思っていたのに、それが変更されて帰り道、ということになってしまう。
そ、そんな長時間をかけて一体何の話をするというんだ...!!

「さっき言いかけてたことなんスけど」
「あ、う、うん」

いよいよか、いよいよ来るか...! 次に放たれるであろう黄瀬くんの言葉に対して心の中で身構える。

「...」
「...」

黄瀬くんはこちらの気持ちなど他所に焦らしてなかなか確信に触れようとはしてくれない。
こちらは今すぐにでも止めを刺してもらってかまわないと思っているのに、止めを刺す側は何か思うところがあるらしく口が思いようだ。

「...それ、つけてくれてるんスね」

やや時間を要してから”それ”と言いながら黄瀬くんは自らの耳を指差した。
それにつられるようにして耳たぶに触れてみれば、以前は柔らかな耳たぶしかなかったそこに硬い感触がある。

「あ、うん、ありがたくつけさせてもらってます」
「穴開けるって言ってたけどホントに開けるとは思ってなかった」
私としては黄瀬くんへの罪悪感があったからすぐに行動に移したのだけど、もしかしたら黄瀬くんにしてみれば「こいつホントに空けやがった」 みたいな感じだったのだろうか。
え、重い? 私の行動ってもしかして重かったのだろうか?
けど言い分けさせてもらうなら将来的には穴を空ける予定だったのでそれが少し早まっただけなので、 耳に穴を開けるなんてとんでもないって思ってたけど黄瀬くんにピアスもらったんだから開けよ! とかそういうんじゃない。

「あ、けどいずれは開けるつもりだったから!」

言い訳するように口早に言えば、黄瀬くんがこちらを見た。

「言ってたっスもんね」

にこっと笑いながら告げられた言葉は、だけど少し違和感を持つものだった。反射的に笑みを返しつつも、きれいに笑う黄瀬くんが何を考えているのか読もうとする。 だけど、そう簡単に黄瀬くんの感情は読めるものじゃない。黄瀬くんと私との関係といえば、とても薄いのだから当然といえば当然だ。 何となくそこからは会話が途切れてしまった。少し気まずい雰囲気に肩が強張りながらも、頭の中では黄瀬くんの目的が一体何なのか考えていた。 まさかこれだけを言うためにわざわざ声をかけてきたとは考えづらい。
やっぱりあの話だろうか......。

「さっき、さんがピアスしてくれてるとこ見て、つい声かけちゃったんスよね」

「あ、そうだったんだ」

沈んでいた気持ちが一気に回復した。
つまり話と言うのは特に無くて、私がピアスをしていたから声をかけてきたということらしい。
処刑台に立って今まさに首を切られようとしたところをぎりぎりで交わせたような、そんな気持ちだ。 際どさはあるものの、それが逆に私を開放的な気持ちにさせた。

「いつもは学校にしてこないんだけど今日は昨日したままになっちゃってて」

さっきまでの硬さはどこへやら、口が滑らかに動くので私はぺらぺらと聞かれていないことを話した。

「服装検査とかで没収されたら嫌だからいつもは透明のをやってるんだけど」

「あぁ」と、黄瀬くんが納得したように呟いた。それに相槌するつもりで「そうそう」と返す。

「大事にしてくれてるんスね」
「うん」

さっきまで張り詰めていた緊張が一気に緩むのを感じた。
こちらが警戒していた話は無かったのだと思うと、ついつい口元が緩んでしまう。そうしてだらしない口元のまま頷いて返すと、 黄瀬くんが視線を反らした。思わず黄瀬くんの視線の先を見つめてみるものの、別に普通の光景しかない。あえて言うならコンクリート舗装されていない隙間の土がむき出しになっているところから雑草が生えていた。

「すげぇ嬉しい」

口元を手の平で隠すようにして呟かれた言葉に、私は呆気に取られてしまった。
というのも、黄瀬くんの反応が想像以上と言うか...想像していなかったというか...。
私の勘違いかもしれないけど、あまりにも嬉しそうに見えてしまったのだ。そんなことがあるわけがないと自分で言い聞かせつつ、 私は話題をそらすために黄瀬くんにお返しをもらったときに浮かんだ疑問を口にしてみた。

「けどお返し大変だよね。黄瀬くんいっぱいチョコもらってるから」

「お返しをもらった私が言うのも変な話しなんだけど」と笑いながら加えると、黄瀬くんがいつもの調子を取り戻して答えてくれた。

「まぁ、そうっスね」

チョコをいっぱいもらってなんかない、というような謙遜はなかったが、それを嫌味とは感じなかった。
黄瀬くんはチョコをいっぱいもらっているだろう、とあらかじめ予想していたのはもちろんだけど、そのキャラもあるかもしれない。

「時間もかかるでしょ? お返しを選ぶのに」

黄瀬くんはこのピアスをくれたときに「さんに似合うと思って」と言っていたのだ。それはつまり、黄瀬くんは一人一人に 向き合ってお返しを選んでいるということなんだろう、と私は感心したのだ。
お金がかかる上に(時間だけじゃなくてもお金もかかる、なんてことはさすがに口にすることは出来なかった) 時間までかかるなんて...黄瀬くんにとってはバレンタインはさほど嬉しいイベントでもないかもしれない、と勝手に私は結論付けていた。

「なかなか出来ないと思うよ。すご、」
「ちょちょちょ、」
「え?」

感心しながら言ったところで、何故か焦った様子の黄瀬くんに言葉を遮られた。
何故今の話で黄瀬くんが焦る必要があるのかわからず、ただただ目を丸くすることしか出来ずにいると、黄瀬くんは一応口元に笑みを浮かべているものの 混乱しているような表情を浮かべた。

「いや...え? 何か、さんもしかして勘違い、してる?」
「え?」

自分では勘違いなどしているつもりは無いので、黄瀬くんの言葉に首を傾げるしか出来なかった。 そもそも何を勘違いしているのかもわからない。なので、黄瀬くんの言葉の意味がいまいち読み取ることができない。

「全員にお返しなんか無理っスよ!」

私が察すのは無理と判断したのか、焦れた様子で答えてくれた。
そうして黄瀬くんに言われてみてようやく私は言葉の意味が理解できた。そして同時に黄瀬くんの言葉にすんなり納得した。 というものの、あんなに大量のチョコをもらっていたのにそれに律儀に返すことが出来るとは思わなかったからだ。
なので、あぁやっぱり、という感じですんなりと黄瀬くんの言葉に納得することが出来た。

「お返ししたのは仕事でお世話になってる人とか、仲のいい友達とか...後は、」
「うん」
「...特別な人、とか」

含みのあるような目配せと共に消え入るような声で呟かれた言葉は、うっかり勘違いでも起こしてしまいそうだ。
だけど私は勘違いなどするつもりはなかった。端から黄瀬くんが私のことを好きになることはないと思っているからだ。 ”だってモデルの誰々とカフェに居た”とか噂で流れてくるような人なのだ。そんな人が私のことを好きになるわけは無い。 だから今提示されたリストの中に私を当てはめるのであれば、仲のいい友達と言うことになるんだろう。
友達?それも仲のいい? という疑問は少々残るものの、他に私をカテゴライズするところがないのだからそうなのだろう。 バレンタインがきっかけでよく話すようになったのだし、仲のいい友達といえば友達なのかもしれない。知らなかったけど...。
まぁその”仲の良い”という部分については黄瀬くんの尺度によって測られているのだから、私とは誤差があるものなのだろう。 「そっかー」とだけ返してまた歩き出した。いつの間にか足を止めてしまっていたけれど、こんなことをしていたら一生家に辿り着くことはできない。 私が歩き出すと黄瀬くんもその長い足を動かすのを再開した。

「オレの言ってる意味わかってないっスよね...」
「え! いや、わかったよ」

少し気詰まりに感じる沈黙を破ったのは黄瀬くんの方だった。
自然と歩く速度が速まっていたところで黄瀬くんの暗い声が聞こえ、私は慌てて首を振って答えた。
黄瀬くんが足を止めてしまったの私も足を止めた。住宅街ということもあって人通りは無い。 なので、私達がここで立ち止まっていても人に迷惑をかけることはないと思う。なんてことを現実逃避するように考えた。

「わかってないっスよ。オレ、一応告白のつもりだったんだけど」

そう言った黄瀬くんは泣きそうな、それでいて恥ずかしさを押し殺そうとしているような表情を浮かべていた。 その表情を視界で捉えて、先ほどの含みあるように感じた目配せは本当に意味があったものだったのだと気づいた。 そう理解はしているのに、なかなか黄瀬くんが私に告白をしたという現実を飲み込むことができない。

「ピアス開けたのもオレのため、ってわけじゃないのはわかってんだけど、すげえ嬉しくて、」

私がこの現実に置いてけぼりになっていることを知らない黄瀬くんは、堰を切ったように話し始めた。 私はそれをただただ唖然としながら聞くことしか出来ない。
だってあの黄瀬くんが私のことを好きなんてそんなことがあるのか? まだ半信半疑なのだけど、目の前の黄瀬くんの様子を見るとうそではないような気がする。

「だから思わず声かけて...」

最後の方は消え入りそうな声だったこともあり、ほとんど聞こえなかった。
目の前の黄瀬くんは見たことが無いくらい顔が真っ赤で、それを隠すように腕を顔の前に掲げている。 私の動きの鈍い頭は、この置かれた現状を理解しようとしてさっきからめまぐるしく働いているけど、私のスペックではショートしそうだ。

「チョコくれたってことは、期待してもいいってことなんスよね」

時間が止まってしまったかのような感覚で居たものの、そんなわけはなかった。 ただただ私の処理能力が遅すぎて時間が止まてしまったかのように感じていただけだった。
黄瀬くんがまっすぐこちらを見ながら言った言葉に、私は反射的に首を上下に振った。

「あっ、はい」
「...それって、付き合うってことで考えてもいいんスか」

黄瀬くんの期待に輝く瞳を見つめながら頭の中でバレンタインのときのことから今までのことが走馬灯のように流れた。
だってそもそもチョコをバレンタインにあげたのは私だし。この時点で黄瀬くんにホの字だと思われてもしょうがないのだ。 というか、思われてしまう状況だった。だって今まで対して面識があったわけでもない私がわざわざチョコを渡したのだから、普通に考えれば勇気を出して思い人にチョコを渡したと思うだろう。 実際はそんなきれいなものではなく...自己中心的としか言いようが無い感情ゆえの行動だったのだけど...。
そこからホワイトデーでこんな高そうなピアスをもらってしまったのだ。断っていたのならまた選択肢は増えていたかもしれない。 だけどあのときの私は罪悪感と自分が犯した罪を隠し通すためにピアスを受け取ってしまったのだ。 それで今まさに嬉しげに耳にピアスをつけているのだ。
ここで断るなんて選択肢があるだろうか?!
思わず耳につけてあるシトリンのピアスに触れて、断るという選択肢は無いことに気づいた。 自分でも知らないうちに私は自分で自分の首を絞めるようなことをしていたのだ...。
その場凌ぎの罪を重ねて、順調に未来の自分の首を締め上げていた。
今更気づいても後の祭り、という言葉がぴったりとも言える展開に、私は全身から血の気が引いていくのを感じながら返答した。

「...はい、よろしくおねがいします」

またここで罪を重ねたことによって、確実に未来の自分への負担が増えたことは間違いないと思う。
だけど今更全てを説明する勇気など私は持ち合わせてなど居なかった。

「こちらこそよろしく...」

感情を抑えるように呟いた黄瀬くんの赤く染まった顔を見ながら、私はそう近くない未来にまた自分がピンチを迎えるであろうことを考えた。





蜜の代償



(20141206)また続くかもNE!