![]() 「...なんですかこれ」 「肩たたき券です」 バーナビーさんは私が渡した便箋から出した肩たたき券を見てから、私を見て、もう一度肩たたき券を見てから私を見た。 バーナビーさんが動揺してるのがよくわかる動きだ。そこまで驚いてもらえたのならプレゼントとしては大成功だな 、と私は達成感で胸がいっぱいになった。たぶん私のプレゼントが一番バーナビーさんにとってはサプライズになったと思う。 皆からのプレゼントを一つと、個人からのプレゼントも...という話になった時、財布の中身は空に近かったときはどうしようかと思ったけど... 喜んでくれているのかは置いといて、吃驚はさせられただろう。 バーナビーさんはじっと手に持っている肩たたき券を眺めていたと思うと、肩たたき券のある部分を指でさしながら私に質問してきた。 「...ちなみにこの奇妙な動物らしきものはなんですか?」 「...」 「...化け物ですか...?」 「どっからどうみてもうさぎじゃないですかッ!! 化け物ってなんですか!!」 「...うさぎ? ...これうさぎですか?!」 そう言うとバーナビーさんは眼鏡のレンズが合っていないと思ったのかもっと良く見ようとするようにカードを顔の目の前に持っていった。 化け物って...! どう考えてもうさぎなのに、失礼すぎることを言うバーナビーさんに憤慨しながらも「あ、ホントだ。 うさぎだ」と、さっきの言葉を撤回するバーナビーさんを待つ。まぁ、眼鏡の度が合っていないのならしょうがないという ことにしてあげよう。そう広い心で思っていたと言うのに... 「こんなに醜いうさぎは始めて見ました」 「ひどい!!」 肩たたき券を見終わったバーナビーさんは眼鏡のブリッジを上げながら驚くべき一言を放った。 これには流石に心の広い私でも憤慨する。叫んだ私にバーナビーさんは眉根を寄せながらもう一度肩たたき券に書いて あるうさぎ(バーナビーさん曰く、化け物)を指さした。ご丁寧にも何故かわいくないのかを説明してくれるらしい。 「どうしてこんなに出っ歯なんですか。かわいさの欠片もありませんよ」 「うさぎは出っ歯、ねずみも出っ歯、ビーバーも出っ歯...これは世界の常識です。だからしょうがないんです」 淡々と返せばバーナビーさんは途端にうろたえた。うさぎは出っ歯であるという今知った世界の常識にどう反応すればいいのか わからないらしい。 「...だけど貰ったうさぎの抱き枕は出っ歯ではありませんでした」 「あれはかわいらしくデフォルメしてるんです。このうさぎはリアルを追求したんです」 「...そうなんですか。...ならしょうがないですね」 いつもならありえないことに今回の勝負は私が勝ったらしい。バーナビーさんに口で勝てるなんてこれが多分最初で最後だ。 小さな感動を味わっているというのに、「けれど何故このうさぎはこんなにも悲しげな顔をしているんです」の一言で 気分は台無しになった。 「それが喜んでる顔なんです!!」 ![]() バーナビーさんの余計な一言にカッとなった私はバーナビーさんが持っていた肩たたき券を奪って目を書き換えた。 だけど、一枚目を書き終えたところで「やめてください!何か怖いです!」のバーナビーさんの一言と共に肩たたき券が 奪われてしまったので作業は中断せざるを得なかった。というか! せっかく親切で笑顔のうさぎに書き換えてあげたというのに、怖いとはなんだ!! 「それで肩たたき券ってなんですか?」 私の気分を損ねてしまったことに気付いたらしいバーナビーさんは取り繕うように優しい声を作って話題を変えてきた。 まだ全然機嫌が治まったわけではないけど、このまま拗ねているのもいくらバーナビーさんの所為とは言っても誕生日なのだから 今回は多めに見てあげることにした。一応反省もしているらしいし。 「その券を使えば私が肩たたきするというすばらしい券です」 「...」 「...」 「もしかしてこれがプレゼントですか...」 「はい! 肩たたき券六枚綴りプレゼントです!」 「...」 「なんとっ!! 六枚もです!!」 「...」 「...」 「それはすごい」 「棒読みじゃないですか!」 バーナビーさんのひどくめんどくさそうな賛辞の言葉はまったくこれっぽっちもすごいと思っていない本音が駄々漏れだった。隠す気も無い。 奮発して六枚も入れてあげたというのに...。バーナビーさんはこれのありがたみがこれっぽっちもわかっていないらしい。 やれやれ...私の正体があの肩揉みのとも知らずに...とんだ世間知らずボーイだ。 「その顔はなんですか。腹が立つので今すぐにやめてください」 強気でいられるの今のうちだぞ! と、考えていたのがどうやら表情に出ていたらしい。不快感を露骨に顔に出したバーナビーさんに 注意されてしまったので、私は気を取り直して肩たたき券の使用方法について説明することにした。 「裏面に使用方法が載ってるんですけど一枚の使用につき肩たたき時間は十分です。それとプレミアムな券なのでバーナビーさんしか使用できませんよ!」 「はぁ...」 「...虎徹さんが肩が凝ってるって言ってもあげちゃダメですよ?」 「あげませんよ」 虎徹さんの誕生日にももしかしたら使うかもしれないということで一応釘を刺そうと思ったのだが、バーナビーさんが すぐに否定してくれたのでその必要はなかったらしい。バーナビーさんのことだからいらないからと言ってこの券の価値も知らずに簡単に 虎徹さんに渡してしまいそうだと思ったがその心配はいらなかったらしい。 意外にもこのプレゼントを喜んでくれているということだろうか。それなら嬉しい。 自己完結だけど、まぁ少なくとも肩たたき券を誰にもあげるつもりがバーナビーさんにないことが分かって私は続きの説明を はりきってすることにした。急に笑みを浮かべた私にバーナビーさんは怪訝な表情を隠しもしないでこちらを見ている。 「それでもう一つ重要なのがこのカードを使う時なんですけど、まずこういうポーズをしてください」 バーナビーさんから一枚肩たたき券を借りると指の間に挟んで私は顔の横に券を構えた。右手に券を持ち、左頬に 手の甲が向き合う形でポーズする。バーナビーさんは珍妙なものを見る目で私を見ているが、こんなことでは心は折れない。 昨日の夜、この券を作りながら思いついた時に絶対これはバーナビーさんにやってもらわなくてはいけないと思ったのだ。 スッと息を吸って、私は右手を前に突き出しながら叫んだ。 「肩たたき券発動ッ!!」 「嫌です」 にべもなく切り捨てられてしまって私は不満の声を上げた。 「そんな!!」 「絶対にやりませんから。何よりもそんな無意味なポーズを何故しないといけないんですか」 「...バーナビーさんにしてもらいたいポーズ1なのに!」 「知りません」 そう言うとこれ以上聞きたくないと言うようにバーナビーさんはぷいっと向こうを向いてしまった。 もうこうなっては私の意見は絶対に聞いてくれないだろう。ちぇっちぇっちぇ!! 口に出してする勇気は無いので 心の中だけで舌打ちを三連発してやった。 「あの、」 「あ、バーナビーさんお誕生日おめでとうございます!」 すっかり忘れていた今更な言葉をお腹に力を入れて叫ぶとバーナビーさんは虚を付かれたように一瞬呆けた顔をした。 それから口を横にきゅっと引き結ぶと眼鏡のブリッジを上げている。 「...ありがとうございます」 「さっき皆と一緒には言ったけど個人的に言ってなかったと思いまして」 「あぁ、それで」 「はい。そういえばバーナビーさんさっき何か言おうとしてましたよね? 遮っちゃいましたが」 「あぁ。あの、これが便箋の中に入ってたんですが...」 そう言ってバーナビーさんが差し出してきたのは金色に光り輝くカードだった。と言ってもゴールドカードみたいな すごいカードじゃなくて、金色の折紙を厚紙に張って作ったカードなのだけど。 「なんでもカードです」 「...え?」 「なんでもカードです」 「いえ、それはちゃんと聞こえてますよ。僕が質問したいのはなんでもカードとは一体何なのかについてです」 あぁ、そういうことか。納得しながら私はなんでもカードについて説明した。 「なんでもカードとはつまり...何でも一つだけバーナビーさんの言うことを聞くってカードです...!」 説明と言ってもその名の通りの意味しかないので、無駄に力を入れながらの私の説明はわずか三十秒足らずで終わった。 肩たたき券だけではなぁ...と思った私は昨日、そっとなんでもカードも便箋に入れることにしたのだ。 肩たたき券は白い紙に文字を書いただけなのに比べ、無駄に頑張って厚紙に金色の折紙を貼り付けたので、肩たたき券 に比べるとレア感が出ていると思う。だと言うのにバーナビーさんは喜ぶでも嬉しそうに跳ねるでもなく、カードを私のほうに差し出した格好で固まったままだ。 「レアカードですよ、バーナビーさん!」 暗にもっと喜んでください! と含みながら言っているというのにバーナビーさんは相変わらずカードを差し出した妙な格好の ままで動かない。なんだろう...いらないものすぎたのだろうか。肩たたき券の時はそれなりに反応があったというのに...滑ったか...。 途端にこれがプレゼントには相応しいものではない気がした私は不安になった。 「いらないなら別に、あの、こっちで処分しますんで...」 虎徹さんの誕生日の時にでも使いまわそう...そう思って、差し出されたままのカードに手を伸ばし引っ張ったが何故か びくともしない。あれ? と思い少し上の位置にあるバーナビーさんの顔を見上げると、眉間に皺を寄せたバーナビーさんがこちらを見ていた。 「...いらないなんて言ってません」 予想外に真剣なトーンに反射的に私は手を離した。 あれ? 気に入らなかったんじゃないの? あれ? 喜んでくれたってこと? 頭が混乱しながらバーナビーさんを眺めていると、持っていたなんでもカードを便箋にしまっている。 そして肩たたき券六枚と、なんでもカードの入った便箋をジャケットの内ポケットに入れた。 その仕草が何だか大切なものを仕舞っているように慎重で、私はまた、あれ? と思いながら目を瞬いた。 「本当になんでも言うことを聞いてくれるんですよね?」 「え? えーと...」 最終的な確認をするように何だか凄みを利かせて尋ねられたので、私は本能的に嫌な予感を覚えて素直に頷くことが出来なかった。 「ですよね?」 私が返事を濁すと、距離を縮めてきたバーナビーさんがまるで脅すかのようにもう一度尋ねてきたので、私は何か嫌な予感を 覚えつつも頷かずにはいられなかった。 「...はい。けど私に出来ることですけど」 「わかってます」 「あ、けど私あんまりお金ないんで...」 出来ればあまりお金がかからないことにしていただけると...と、ぼしょぼしょと情けないことを呟きながら、内心一体何を 要求されるのか戦々恐々していると、先ほどと打って変わって明るいバーナビーさんの声に遮られた。 「大丈夫です」 どうやらあまりお金はかからないことにホッとしながら、なんでもカードなんて作らなければ良かったと今更考える。 それにしてもじゃあ何のお願いだろう。そう考えた私の顔を見て、バーナビーさんは私が何を言いたいのか分かったらしい。 「さんの身一つ用意していただければ」 「なんだ、そうなんですか」 「はい」 「よかったー」 「よかったですね」 「はい」 「...」 「って、えぇっ?!」 「じゃあ僕はこれで。おじさんと約束があるので」 「えっ?!...えっ?!あのっ?!」 私が呼び止めているのにも関わらず、バーナビーさんはすたこらっさっさと長い足を動かして休憩室から出て行こうとしている。 その姿を慌てて追いかけながらも、私の頭はめまぐるしく動く。 身一つって?! 一体何を言われるの?! 肉体労働的な?! あ、部屋の模様替えとか?? それらを質問したいのに口からは言葉にならない音が漏れてくるだけだ。急いで追いかけても足の長いバーナビーさんに追いつけるわけも無く、 私の声を無視したバーナビーさんはあっという間に出口に到達してしまった。自動ドアは人が来たことを察知して、速やかに扉を開けた。 「プレゼントありがとうございました」 最後ににっこりと笑顔を浮かべて、実にさわやかにバーナビーさんは部屋を出て行った。 不安で顔が引きつる私を置いて...。 |