名前は知らないというのに、キャラメルバナナ味のクレープが好きということは知っているスカイハイに、胸中でツッコミをいれていると、突然今まで黙っていたネイサンが会話の中に入り込んできた。 「え!! それっともしかしてこの間の子じゃないの?!」 そうしてつかつかとこちらにやってきたかと思えば、俺が握っていたドロップ缶を攫っていった。 まじまじと手の中にある缶を見つめている。 「これ、あの時もらってたやつだったのね! アタシ達が邪魔しちゃったのね?!」 「達ってなんだ?」 「アタシとデート中だったロックバイソンのこ・と・よ」 サッと全員の視線がアントニオに向けられる。そうすると青い顔をしたアントニオが両手を顔の前で振りながら、首をぶんぶん横に振っている。 「違う違う!! デートなんかしてねぇよ!!」 「あらーん、照れなくてもイイじゃない?」 「偶然会っただけだろうが!!」 必死に”デートをしてない”ってことを主張するアントニオの隣にするりとネイサンが滑り込んだかと思えば、ぴったりと体を寄り添わせた。 大げさなほどアントニオの肩がびくっと震える。体がでかくてむさいのに、不思議とアントニオの奴が子羊のように見えた。 「もう、照れすぎじゃない?」 「そうだぞ、あんま言うと失礼だぞ」 「虎徹、お前っ...!」 二人でなじってやるとすぐさま否定しようとするが、そんなアントニオは置いておき、ネイサンがさらっと話を戻した。 「アタシたち悪いことしちゃったわね。ごめんなさいね、スカイハイ」 「いや、君達二人のせいではないよ」 「お、俺もカウントされてるのか...?」というアントニオの声は容赦なく無視された。 「ねえ、その人と会ったところには行ったの?」 「あぁ、もともとジョンの散歩コースだったんだ」 ブルーローズの冷静な問いかけにもスカイハイは力なく笑って答えただけだ。 「会いたい人に会う方法なぁ...」 顎を撫でながら呟くと、バニーがチラッとこの部屋の扉のほうに視線をやったのに気づいた。そしてもう一人、同じように折紙も扉を見ている。 何かあるのか? と、一緒になって扉のほうを見てみるも、いつもとなんら変わりがない光景が広がっているだけだ。 そこでピンときたのは誰か会いたい人がこの二人にはいるってことだった。”会いたい人”を自分に当てはめて考えたのだろう。 といっても、バニーの方はすぐに想像できた。 このトレーニングルーム来る奴なんで限られてる。その上ほとんどが今ここに集合しているんだ。足りない誰かを考えているのはすぐに想像できた。 「バニーも会いたい奴がいるんだな」 隠せない笑いを浮かべながら指摘すれば、パッとバニーがこちらを見た。 驚いている様子が伝わってくるが、それを隠すようにすぐさま眉間に皺が寄った。 「はっ? 何言ってるんですか、別にそんな人居ませんよ」 「へー、つってもさっきから出入り口見てるじゃん」 「はぁ? 別に見てませんよ」 罰の悪さを隠すためか、険しい表情を浮かべるバニーにこれ以上言っても認めることは無いだろうと考え、それ以上は言うのをやめた。 話題を変えるついでに、今度は折紙に話を振った。 「折紙も誰か待ってんのか?」 「へ?! え、僕ですか?」 「あぁ、折紙もあっち見てただろ」 バニーが誰を待っているのかは想像できたが、折紙の場合はまったくわからん。 は俺ら以外のヒーローにはまだ挨拶をしてないって言ってたんだから、当然折紙とも会ったことがないんだろう。 いや、会ったことがないからこそいろいろと”折紙サイクロン”に夢を見ていたんだろう。 他にも誰かここに来るような人が居るのだろうか? そんな俺の疑問を折紙は解決することなく、「いえ、あの、えっと」と要領を得ないことを言うばかりだ。 「それよりも今はスカイハイよ!」 何でか張り切っているらしいブルーローズの言葉に、そういえばそうだったと思い出した。 「って言ってもなぁ...待ち伏せとかしか思い浮かばねぇわ」 「俺もそれしか思い浮かばん」 俺とアントニオのやる気の無い言葉を聞くと、ブルーローズが眉を吊り上げた。 やべえ、今のどこにそんな怒らせる要素があったのかわからんが、どうやら怒らせてしまったらしい。 ちらっとアントニオに視線を送ると、同じように奴もこっちを見てた。 「これだからオジサンは嫌なのよ!」 「おじさんは今関係ないだろ?!」 どっかの誰かのような言葉を吐くブルーローズに反論してみるも、睨みを返されただけだった。 結局誰も”待ち伏せ”以外にスカイハイがドロップ缶をもらった人に会う方法が思い浮かばず、腕を組んで黙り込んでいると 視界の隅を何かがちょろちょろ動いているように感じた。自然と視線がそちらに引き寄せられれば、それが人影であることがわかる。 誰だ? 当然とも言える疑問を浮かべながら様子を伺っていると、向こうもこちらの様子を伺っているのか、ガラスの部分からこちらを見ている。 ...と、ちょうど目が合い、そこでようやく誰かわかった。 「...?」 (20140326) |