![]() 不可解な事件というのがこの街では多い。私たちの常識をはるかに飛び込えた事件が起きるのは決して珍しいことじゃない。 そして今日も、そんな不可解な事件を解明するべく私は車を走らせていた。 助手席にはロウ警部補が乗っている。有力な情報を得られると見越して訪問した先はもぬけの殻で、結局何も掴むことができなかったので警部補は無口だ。 あと一歩というところで逃げられたのだから警部補がいらだつのも無理は無い。そういう私も気持ちが落ち込んでいる。 これでまた捜査を仕切りなおす必要があるのだ。そして事件はこれ一つだけではない。 毎日にように不可解な事件が起きるのだから、これにかかりきりというわけにもいかない。だからこそ今日はその尻尾だけでも掴む必要があった。 「次の角左に曲がれ」 「え? 戻らないんですか?」 突然口を開いた警部補の言葉が意外で私は思わず視線を隣に向けてしまった。 そうすると「前見ろ」とすぐさま注意を受けてしまったので慌てて視線を正面に戻す。 そこまで運転がうまいわけではないことを知っている警部補は、私が正面から視線を反らすことに敏感だ。 「済ませとく用がある」 気分が乗らねぇがな。と言ったきり語ろうとしない警部補を乗せ、私は指示されるままにハンドルを切った。 そうしてやってきたのはHLの中でも霧の濃い場所だった。人気も無く不気味な雰囲気が漂っている。 間違っても一人ではこんなところに長居することはないようなところだ。 車のドアを開けた警部補に続いて、私もシートベルトを外して外へと出ようとしたがそれは「お前は待っとけ」という一言によって留められることになった。 「えぇー!」 すぐさま不満の声を上げれば、警部補が眉をひそめる。 「聞き分けの悪い奴には...」 「...し、死を...?」 ドスの利いた声で紡がれた脅し文句に怯えながら答えれば、警部補が吹き出した。 「そこまでは言わねぇよ。いいから待っとけ」 先ほどまでの顰め面が消えたことは喜ばしいが、一人車内に置いてけぼりにされるのは正直面白くない。 ちぇっ! と舌打ちにも似た音を口にしたとき、一台の車がヴォン...と低いエンジン音と共にこの人気の無い場所へと滑り込んできた。 霧が濃い所為で車種などの詳しいことまではわからなかったが、警部補が言う”済ませとく用”に関係していることは察しがついた。 何しろこんな場所に用があるなんてそうそうないだろう。 来るまで待っていろとは言われたものの、目を瞑れとまでは言われていない。なので私は身を乗り出してその車を見つめた。 やがてバン、と音を立てて人影が二つ、警部補が消えたほうへと向かっていったのが見えた。 影の大きさから想像して、きっと男だろう。だけど私がわかったのはそこまでだ。 思っていた以上に濃い霧は、上手に彼らを隠してしまっている。だからこそ、この場所が選ばれたのだろう。 秘密の取引をするには打って付けの場所だということを私は身をもって知った。 . . . . 「えっ! さっきのってライブラの人たちだったんですか!」 「お前っ! 前見ろ前!!」 危うくゴミ捨て場へと突っ込みそうになったところを慌ててハンドルを切って事なきを得たものの、警部補の眉間に深い深い皺が出来てしまった。 「えへへ」と誤魔化し笑いを浮かべた私に、警部補はそれはそれは大きなため息を返してくれた。 「俺らが動いても片付けられねぇ問題がわんさかあるわけだ、HLには」 車を降りた警部補が先ほどの話を再開したのだと思った私は黙って頷いた。 「お前が前に言ってたように、ライブラは使える」 つまり、警部補の話はこうだ。お互いに協力できるところは協力するというもの。 こちらが協力が欲しいときにはライブラに要請して、変わりにライブラが欲しがっている情報を時折渡したり...だとか。 持ちつ持たれつの関係というのをライブラと警部補は結んでいるらしい。だが警察組織に属している者としては、 それはおおっぴらにすることができない。だからこそあんな人気の無いところで会っているということが理解出来た私は「だからあんなところで」と答えた。 そうすると警部補がニヤッと笑ったので、物分りのよさを褒められているのだと言外に理解した。 先ほど一人車に残されたときのふてくされた気持ちは消えたものの、今度は新たな憤りと言う名の感情が生まれた。 「何で教えてくれないんですかー!」 「ああ? お前が信用できるとも限らねェしな」 「...ひでぇ...こんなに忠実な部下を信用できないなんて」 警部補の言葉は私の胸をひどく切りつけた。思わず目には見えない傷ができている胸を押さえながらそんな恨み言を口にしてしまう。 そんな私をちらりとも見ずに警部補はさくさくと歩を進めて署内へと入ってしまった。 「だから今教えただろ」 一瞬間を置いて理解できたその言葉の真意に、私は思わずにやにやにしてしまった。 |