あまり食欲が無かったので、朝は牛乳だけを胃の中に流し込んできた。水分しか入っていない、お腹の中が変な感覚がする。気乗りしないまま制服に袖を通し、家を出た。 そうして、同様に学校に行こうとしている涼太くんが家から出てくるところに出くわした。 この間まで暑いと感じていたのに、今じゃ朝はすっかり冷え込んでいることもあって、涼太くんは長袖を着ていた。私も同様に長袖を選んできた。 もう半袖は片付けてしまっていいかもしれない。 「おはよう」 「はよっス」 涼太くんはまだ眠そうに欠伸をしながらやって来た。 自然と並んで歩くことになり、私は言おうと思っていたことを言葉にしようとして口を開いたものの、やっぱり声に出すことが出来なかった。 昨日の今日で頭にきているから冷静に考えることができないようになっているのかもしれない...そういう迷いが生じていた。 口にするには少し戸惑う...喉のところに言葉がひっついている感じだ。 だけど、迷っている私を涼太くんのほうから促してきた。 「なんか話したいことあるんじゃないの」 涼太くんにそういわれることで、今まであった迷いが消えた。 一度頭の中で声に出すべき言葉を練ってみてから、この作業は必要ないのだと思った。 涼太くんと同じように思ったまま口にしてもいいはずだ。だって涼太くんだってそうしてる。 「昨日友達は選べって、涼太くん言ったの覚えてる?」 「...あぁ、うん」 少しだけ返事に迷いがあったのは、この話題を振られるのが嫌だったからか、それとも自分の発言を忘れてしまっているかのどちらだったのだろう。 早朝というには時間が経ちすぎていることもあって、時々人とすれ違う。 住宅街なのでそこまで人が多いわけではないが、もう少し大通りに出れば人も車もたくさん動き回っているいつもの光景が広がっているはずだ。 「だから、涼太くんとは友達やめる」 結局、言葉はとてもシンプルなものになった。 さっきまで考えていた候補の言葉がいくつもあったはずなのに、土壇場になって忘れてしまった。 「......は?」 朝の気持ちのいい空気にぴりっとしたものが走った。 涼太くんは一文字発しただけだというのに、それだけで確かな怒気を感じさせた。 それに少しばかり負けそうになる心を奮い立たせ、私は言葉を続けた。 「涼太くんが言ったんだよ。友達は選べって」 「...言った、けど、それが何でこうなるわけ」 ゆっくりと発せられた言葉は、一見すると怒っているとはわからない。だけど、涼太くんが今体の中で怒りの感情を燃やしていることがわかった。 こんな態度を取られたら、今までの私なら引いていたことだろう。そして涼太くんもそれをきっとわかっている。 私は何度も涼太くんに譲歩してきた。だから今回もそうなると涼太くんは思っているはずだ。 優位に立っていると涼太くんは思っている。そして事実、私達二人の関係に上下をつければ、私は下で涼太くんは上だ。 それを覆そうとは思ったことがなかった。小さな頃から涼太くんの後ろを何の疑問も持たずに歩いてきた。 「じゃあ、そういうことだから」 横目で見た涼太くんの表情は、驚愕という言葉がぴったりだった。 それを確認して暗い喜びを感じた。自分でも陰湿だと思う。 私は涼太くんの追い越して颯爽と歩いて学校へと向かった。 |