震えた携帯を見てみればディスプレイに涼太くんの名前を見つけて私は知らず小さく息を吐いた。 ついぞ見なかった名前はここ最近頻繁に見ている。 あの時、今なら言えると思って行動に移した結果がこれなのだ。 . . . 不意に頭に緑間くんに言われた言葉が浮かんだ。 ”さっさと仲直りでもするのだよ” 正確に言えば喧嘩ではないのだけど、まぁそれは置いておいて...問題は緑間くんが涼太くんからの連絡を歓迎しているわけではないと言うことだ。 よく知りもしない私について質問をされるばかりなのだから当然面白い会話になるわけもないだろう。 簡単に言えば、緑間くんに私のことで連絡するのはやめてほしいということを伝えたのだ。 私のことで連絡をするわけじゃないのならそこに私が口を出すのはおかしいし、出すべきではないということはわかっている。 だけど涼太くんは私のことについて探りを入れるようなことを緑間くんにどうやら連絡しているようなのだ。 つまりそれが問題だ。 そもそも私と緑間くんはそんなに仲が良いというわけでもないのに、そんな私のことについて尋ねられるのは緑間くんにとっては 迷惑以外の何ものでもないと思う。だけどどうやら私と涼太くんが喧嘩をしていると思っていたらしい緑間くんは面倒に思いながらも返信をしていたようだった。 私としても他の人に迷惑をかけるのは本意ではない。 だから言ったのだ。 「...緑間くんに私のことで連絡するのはやめたほうがいいと思う」 下手すると自意識過剰に受け取られかねない言葉を口にするのは少し躊躇してしまったがきちんと伝えた。 そんなつもりで連絡してない! と、涼太くんを怒らせてしまうんじゃないかと少し不安だったが、そんなことはなかった。 「...それ緑間っちが言ってたんスか?」 意外にも落ち着いているので少しだけ肩透かしを食らったような気分だ。いや、怒ってほしいわけでは決してないのだけど、 この反応は予想していなかった。 「うん...」 続けて「早く仲直りしろ」とも言われたことを口にしそうになって慌てて口を閉じた。 そこは別に伝えなくてもいいことだ。そもそも私と涼太くんは喧嘩をしているわけじゃない。 「わかった」 何かを考えているかのような少しの沈黙の後に聞こえた声に私は驚いてパッと隣の涼太くんを見た。 先ほどとは違い、涼太くんは私を見張るかのように隣に居る。先ほど私を置いて行きそうになったことについて思うことがあったのだろう。 「その変わり、」 続けられた言葉に嫌な予感を覚えるのは当然だと思う。おまけに涼太くんは勝ち誇ったような表情を浮かべているのだから条件をのむ変わりとして提示されるだろう条件は、 私にとってよくないものだと反射的に思ってしまったのだ。 きっと私は表情に浮かべてしまっていたのだろう。それを確認したらしい涼太くんは憎たらしいことにますますその笑みを深めた。 涼太くんは時々私を困らせるときにこういう顔をする。 「直接連絡する」 一瞬どういう意味なのかわからずにリアクションが遅れた。 「えっ、」声を上げたときにはもうそれは決定してしまったのだと涼太くんの表情を見て知った。 . . . ”部活は?” 最低限な言葉だが何を尋ねられているのかは十分に理解できる。 学校が終わってからでも返信はいいだろうと携帯を仕舞う。既読の文字がついてしまったけどまぁいいだろう。 あれから涼太君は何かと連絡をしてくるようになった。緑間くんにもこれだけの頻度で連絡をしていたのならそれはそれは迷惑だっただろう。 幼馴染という関係で、家も隣同士なのにお互いにまるでなにもわかっていなかったのだとこのやり取りをしてみて通して改めて思った。 それほど基本的なことについて尋ねられるのだ。 「おはよ」から始まったやり取りは「クラスに知り合いはいた?」とか「友達は出来た?」とか何気ないものばかりだ。 その合間に「今日は仕事だからそっち行く」というものまで来た。それに対しては何て答えればいいのかわからずに「そっか」と簡素すぎる返答だけしておいた。 ここまでいろいろと質問をされればいくらなんでも私もわかってきた。 ぼんやりと窓から見える校庭の様子を見つめながら小さく息を吐いた。 どうやら涼太くんは私に興味があるらしい。どういう風の吹き回しなのか、涼太くんの考えていることはさっぱりわからないけれどそれだけはわかった。 |