最近城の中で妙な事が良く起こるのだ。ある者は夜の見回り中、突然背後から誰かに襲われ朝になるまで気を失っていたし、 ある女は何か影のような物を見たとか...他にもこの世の物とは思えないほどに美しい男が夜廊下を歩いていたかと思えば 一瞬にして消えたや、夜中に女の小さな笑い声を聞いたという者もいるのだ、 私も実際見るまで信じられなかったのだが、夜中にふと何かを感じて目を覚ますと枕元に女が立っていたのだ。



 目の前で青い顔をし、それはそれは恐ろしそうに話すこの城の主に利吉は頭が痛くなるのを感じた。
幽霊をどうにかして退治してくれ。これが今回の任務内容である。
祈祷師に頼んだりと色々と思いつく限りのことはためしてみたのだが、効果はなく。藁にもすがる思いで今度は売れっ子忍者 である利吉に依頼したらしい。
 利吉としては頭が痛いばかりだった、幽霊などどうやって退治しろと言うのだ。それを専門にしている祈祷師に出来なかった ことが自分に出来るはずがない。今回は悪いが断る事にしよう。そう決意し口を開くと目の前の城主がそれを察知したのか さっと立ち上がり上座から降りてきたかと思うと利吉の手をぎゅっと握った、そして必死な顔をしながら利吉に口を挟 む時間を与えずに言った。

「頼む!もう他に手がないのだ」

 その必死さに思わず首を縦に振ってしまった。


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「はぁ」

 もう何度目になるか分からない溜め息が口から零れる。
あれからそう時間は経っていないのにすでにあの時勢いに押され、この仕事を引き受けた事を後悔していた。 だからと言って溜め息ばかりついていてもしょうがない、重い腰を上げる。
 取りあえず目撃証言の多い太陽が沈み、月が昇る夜に城の中をしらみつぶしに歩く事にしてみたが...一向に噂の幽霊とやらは 現れない。 ついでに言うと男と女、二人の幽霊がいるような口ぶりを城主はしていたがどれも白い装束で長く黒い髪という所から、 一人だけだと思う。今のところ女だというものの方が多いが月明かりだけの頼りない光のもとで見たのではその証言さえも 危うい。
 そもそも幽霊など本当にいるのだろうか、そこからして疑わしい。
本当にいるかも分からない物を退治するなど......誰一人歩いていない廊下を見やり、今自分がしている行動がとても馬鹿ら しく感じた。
祈祷師に出来ない事を忍びである自分が出来るとは思わないのでやるだけやってみるが、 ニ、三日して何もなかったらさっさと帰らせてもらおう。
そう結論付けてまた足を踏み出す、すると後ろでぎしっと床が軋む音がした。それにつられるように首を捻れば闇に浮かぶ ようにして真っ白な装束が目に入った、それを辿る様に視線を動かせば白い顔をした恐ろしく顔の整った。男か、女か、 が黒く長い髪を束ねもせずに立っていた。
その異様な光景に利吉の頭の中を掠めるのは昼間城主に聞いた―幽霊―の言葉であった。
ぐっと思わず唾を飲み込む、するとそれに反応したように目の前の男か、女か、は伏せていた目をゆっくりと上げた。 僅かな月明かりでも影を落とすほどに睫が長い。
次に見えたのは燃えるように赤い瞳だった、不気味なほどに美しい赤だった。
はっと息を飲みその赤に目が釘付けになると、その赤の持ち主は目を弓なりにさせて笑った。 それに目を瞬くと、次の瞬間には廊下にはまるで初めから何もなかったように自分一人になっていた。


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 あれから宛がわれた部屋へと戻り、先ほど見た事について考えてみると噂の幽霊は幽霊などではない物という結論に至った。 白い装束がいかにもという感じがしないでもないが、一つ一つの動きに生を感じられた。
それは伏せていた目を上げる時であったり、笑う時であったり、燃えるように赤い目にもすでにこの世の物ではないなど 感じさせない強い光を感じた。
ただ一つ恐ろしく整った顔が、この世の物ではないのかもしれない、など思ってしまう。




 城主に昨日の夜の出来事と最後に自分の考えとして幽霊などではないと思うと伝えた。すると、目の前で一つも聞き逃す まいと真剣に耳を傾けていた城主は腕を組み何か考えるように唸った。その次にくるであろう言葉にそなえ構えるが、

「…足はあったか?」

 なんとも気の抜ける質問に

「…はっ?」

などと一国一城の主に返してしまい、利吉は慌てて謝罪の言葉を口にした。が、そんなことは気にしてないのか青い顔をした 城主はもう一度同じ問いを口にした。

「足はあったか?」
「あ、はい。ありました」

 なんせ床が軋む音がしなければ自分は後ろに人がいるなどとは気づかなかった...恥ずかしい事に。気配というものがまったくし なかったのだ、まるでそこに突然現れそして突然消えたかのようだった。

「分かった」

 そこで思考を切断された、声を発した城主へと目を向ける。

「赤い目をしていたと言うていたであろう?」
「はい」
「そのような者見たことがあるか?わしはない」
「私も初めて見ました」
「それは、化け物だ」

 男か女か分からぬのもそれでだ。続けてそう言い切った城主に利吉にはまたもや頭が痛くなるのを感じた。
幽霊や化け物など、どうしてもそのようなもの仕立て上げたいらしい。

「流石は山田利吉! 一日にしてここまで調べ上げるとは」
「ありがとうございます」

 だが、褒められて悪い気はしない。








(20100413)