眠っていない自分には眩しく感じる朝日を眺めながら、つい先ほどまで話をしていた相手を思い出し。改めて意味が分からな いと思った。それは話し相手であったのことでもあったし、自分のことでもあった。何もかも意味が分からない。


 あれから――名前を教えあった日――以来、相手は自分の事を利吉と呼び、自分も彼女の事をと呼んでいる。
まずこの時点で意味が分からないのだ。何故なら彼女と私の関係を表すならば、退治する者と退治される者、狩る者と狩られる者、 言葉の表し方はいくつもあるが、一言で言うならば敵対するものどうしだ。簡単な例で言えば桃太郎と鬼だ。この場合、もちろん 私が桃太郎で、が鬼ということになる。
それなのにだ、最初に会ったときと関係は変わっていないはずなのに、徐々にだが確実に変化しているのが分かる。 夜になればは現れる、そして自分は彼女に刃を向けるのだが悔しい事に彼女はそれを楽々とかわす、それを暫く続け ていると急に、ふっと今まで張りつめていた糸が切れるのだ。そしてそれが合図で彼女が口を開く。
 ここまでの流れはすでに恒例と言ってもいいほどにあの日以来何度も繰り返された。そして私は今や最初に感じていたこの流れについての 疑問が薄れてきてしまっている。もう、こういうものなのだと納得してきてしまっている。それほどまでに強引には 空気の流れを変えてしまう。人に興味があるのか私を質問攻めにするのだ、驚きに目を瞬いている間にもの疑問は途切れる ことなく、私に浴びせられる。
その質問の内容はというと外の世界...この城の外での出来事などについてだ。
城下はどのようなところだ? 茶屋の団子はどんな味だ? この城以外の城もこのような感じなのか?
まるで私を通して外の世界、人の生活などを見ようとしているように感じる口ぶりに一つの疑問が浮かぶ、もしかすると ははここから出られないのだろうか。


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「ここから出れないのか」

 それは疑問などではなくもう確信した質問だった。いつものようにの質問に応えて居る時の言葉と言葉の少しの時を 見逃さずに口を開いた。今までさして興味もなく眺めていた瓦のしみから右隣に座る彼女へと視線を移す。
問われた本人は意外や意外、驚いた様子など見せずに瞬きを一つし目を伏せただけだった。だが、その伏せられた瞳を 縁取る長いまつげが月明かりによる影で震えるのを見逃さなかった。

「そうだ」
「私はここから出ることが出来ない」

泣くかと思った。



「...何故出れないんだ?」
「何故だと...」

 隠すことの出来ない怒りを含んだ低い声、燃えるように赤い目に睨まれ思わず体が揺れる。それに気づいたらしい彼女はふぅと息を吐き、小さく「悪い 」と呟いた。

「ここに閉じ込められているんだ」

 封印されていると言えば分かりやすいか?  さっきまでの感情は何処に行ったんだというほどにあっけらかんと言葉を吐き出した彼女に拍子抜けする。けれど先ほどの 怒りに燃えた目を思い出しホッとする。
 そしてその吐き出された言葉におかしい、と首を傾げる。

「けど、自分達が閉じ込めておいて幽霊だと思い込んでいたぞ?」

 そうだ、自分がここに来るまで城主やこの城の者たちはのことを幽霊だと思っていた。封印したのならそれに理由だっ てあるはずだ、ましてや正体だって分かっているものじゃないのか? それなのに彼らはが本当に幽霊であると思い込んで 怯えていた。

「そりゃ、あいつらは私がここに封印されているなんて知らないからな」
「はっ?」
「あの城主の...祖父? いや曽祖父? の時に私はここからすでに出ることが出来なくなっていた」

 目覚めたのがその時だったから、ここにはもっと前から居たのかもしれないけれどな。しれっと、特別なんの感情も 浮かべずに淡々と言葉を紡ぐだが、私は自分の耳を疑った。
 あの城主の曽祖父だって? は? って事は?


「ん?」
「いまいくつだ?」








(20100612)