肩を小刻みに揺らし、口を押さえて笑っているに呆れた視線をやるが、それでもなお、くくく...ふふ....と喉の中でくぐもった 笑い声をもらすに、これはだめだ...とわざと大きく聞こえるようにため息を吐いてみせる。
だが、あまりにもおかしそうに笑うに釣られて何だか自分も笑んでしまっているような気がする。

「はぁー、笑った...まさか年齢を聞かれるとは思わなかった」

 目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭いながらはまだおかしそうに口角をあげて話した。あまりにも自然な動作で涙を拭う ものだから、その違和感に気付くのに一瞬遅れた。
 人と同じように涙が出るのか。

「...気になるじゃないか」
「あぁ、けど私はてっきり、」

 不自然に断ち切られた言葉の先を促すように最後の言葉を拾い上げ、オウム返しに尋ねる。
「てっきり?」
「忘れた」
 にべも無く切り捨てられた。だけれど切り捨てられた言葉が何であったか、その先の話は薄々分かるような気がする。 変に重くなった空気を振り払うために不自然でない程度に話題を元に戻す。

「結局いくつなんだ?」
「んー、...覚えていない」

 この城よりは年上だと思うけれど。
ぽつり呟かれたその言葉に考えてみるも、結局この城がいつからここにあるのかなんて分からなかった。
ぼんやりと見える景色、遠くまで続く道、鬱蒼と木の茂った森、昼になれば太陽の光を反射し、眩しいほどに光りだす川、 この屋根の上からだと随分遠くまで見える。けれど実際に触れることは適わないのかと思うと何ともいえない気持ちになった。 隣のを横目で盗み見ると赤い瞳は月明かりを反射し、輝いていた。だが、その輝きの中に見えた悲しみの色のような ものを見つけてしまい、居た堪れなくなり目を逸らした。
そして、これがどういう感情であるのか、何故その感情を抱いたのか。考えないように頭の隅に追いやった。
 私との関係は桃太郎と鬼なのだ。


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 昨夜、から聞かされた話について私は雇い主である城主には何も言わなかった。
すでに恒例となった城主に昨夜の報告をする時間、気づけば私はここ数日述べていた言葉を紡いでいた。

「申し訳ありません。昨夜も手掛かりになるようなものは見つけることが出来ませんでした。」

 深々と上座に向かい頭を下げれば城主は残念そうにため息をつくが私の事を責めるような事はしない。端からあまり期待を していなかったのだろう。期待されても困るのだが...。(忍者は何でも出来るなんて思われていては、大きな間違いだ。)




 部屋に戻り昨夜のことについて考えてみる。
城主には何も進展は無かったと言ったが、実際には進展はあった。
まず、が自分の意思でここ居るわけではないというのが分かったのだ。これは大きな進展と言えるだろう。 好きでここに居るのならば出て行けと言って出て行くわけがないのだが、無理やりにこの城に封印され縛り付けられて いるというのなら話は違ってくる。
昨日、私が尋ねた時の態度からもここに居る事がの意思ではない事が十分に理解できた。ならば、早い話その封印 とやらを解けば城主も喜び、も喜ぶ結果が目に見えて分かる。(退治しろというのが城主の依頼だったが、 無理だという事は身に染みて分かっているので、これは妥協案だ。)
 だが、事はそう簡単ではない。
は人間ではない。その上に封印されているなど、一体どのような悪事を働いたのかという疑問も出てくる。 そして、そのような悪事を働いたものを自分の城から出れないよう封印をするというのもおかしな話だ。
城に進入できないようにするというのならば分かるが......矛盾している。
それともは悪事など働いていないのだろうか。
考えてみても答えは見つからずにますます疑問は深まっていく。
調べようにもの話では今の城主の祖父か、曽祖父かがを封印したようだった。その時の事を知っている者など 、残念ながらもう居ないと思う。
本人に聞くのが一番なのだが...。信頼しても良いものなのか分からない。
文献か何かでこつこつ調べれば出てくるだろうか。一つの可能性、というよりもそれ以外の可能性が見つけられなかった 私は、少し仮眠をとってから書庫を探しに行く事にした。
 ここ最近、きちんと睡眠をとっていなかったものだから横になり、目を閉じるとすぐに意識は静寂の中へと落ちた。








(20100822)