「良い天気だ」 こんな日は日向でのんびりしたいものだけど、ここ図書室ではそれも叶いそうに無い。 だが、こんなにも天気がいいからだろうか。今日は皆、外で過ごそうと考えたのか、今図書室の中に本を読みに来た人は居ない。 僕も出来ることなら日向で今日は過ごしたかったが当番があるのでそうもいかない。 せめてもと窓から日の光りを浴びようとそちらに歩くと、本を読んでいた中在家先輩が顔を上げた。 「外、良い天気ですよ」 「...そうだな」 外の方向を指差しながら言えば中在家先輩も頷きつつ同意してくれた。小さな相槌は人が居ないこともあって、すんなり 耳まで届いた。先輩はそれだけを言うとまた手に持っている本へ視線を落とす。ずいぶん熱心に読んでいる本は 次に回してもらう約束をしてある。図書委員会の特権だ。中在家先輩はたくさんの本を読んで、おもしろければそれを勧めてくれることがある。 今回の場合もそれで、お勧めしてもらったのは先輩が今読んでいる本だった。 中在家先輩との会話が途切れたことによって、また僕は視線を外に向けた。そして、窓から身を乗り出すとちょうど見知った姿が見えた。 何かの包みを大事そうに抱えているのはだ。それも機嫌がいいらしく、一人で歩いているのに口元が緩んでいる。 思わずそんな気の抜けたの姿に笑ってしまったところで、まるで僕の笑い声が聞こえたかのようにがこちらを見た。 続いてぽかんと口が開いた。「あ」そんなの声が聞こえてきそうだ。丸く開いた口と、少し見開かれた目にまたしても笑いがこみ上げてきた。 「らいぞー」 は僕に笑われていることについては特に何も思わなかったようで、ただ僕の姿を見つけて嬉しいと思ったかのように笑みを 浮かべている。犬みたいだ、と言ったらきっとは怒るだろうけど、僕の頭には咄嗟にそんな言葉が浮かんだ。 懐くまで時間が掛かったけど、一度心を許すとこちらに甘えてくるようになる。一見すると猫かと思うの本質は全然違うものだ。 和やかな気分で、こちらに向かって手を振るに僕も手を振り返した。 「委員会ー?」 「そう」 図書室内では大きな声を出すことは厳禁なので、頷きつつ小さな声で返答した。すると、は何かを考えるように視線を 上空にさまよわせたかと思うと、突然校舎向かって走っていった。唐突なの行動に頭をかしげる。 それぐらいしか今のについての行動の理由が思いつかなくて、僕はそれに少し腑が落ちないとは思いながらも納得することにした。 図書委員としての仕事はすでに済んでいるので、人が来ない限りは暇だ。本を読もうかとも思うけど、こう天気がいいと そういう気にならなかった。このままここでぼんやりしていると確実に眠ってしまいそうなのに、日の光が気持ちよくてここから離れられない。 窓枠に肘をついて、僕はそれでも外を眺めていた。半分瞼が落ちて来そうになったその時、戸を引く音で僕のまどろんでいた意識が引き起こされた。 ようやく誰か利用者が来たのかと思って振り返れば、先ほど姿を消しただった。 「じゃーん!」 両手を広げた格好で謎の効果音を口にするは、何故か得意げな表情を浮かべている。突飛なの行動に自分の目が丸くなったのがわかった。 それから僕の反応を待っている様子でじっとこちらを見ているに、思わず吹き出してしまった。それからハッとして 慌てて中在家先輩を見ると、もここが図書室だということを思い出したらしい。二人で一緒に謝ってから会話を再会させた。 「なに、そのじゃーんって」 「登場の時の音」 はそういうと僕の前に腰を下ろした。 「委員会終わったらこれ食べようよ」 「なに?」 が持ち上げて見せた包みは、先ほどどこからか帰ってきたときに大事そうに持っていたものであることはわかった。 が、それが食べ物であることも今知った僕には、中に何が入っているのかも検討がつかない。そうすると、僕の言葉に は心底嬉しそうに笑った。その反応だけでの好物であることが察することが出来る。きっと甘いものじゃないだろうか。 「葛餅」 きらきら目を輝かせて言うは、本当にそれを食べるのが楽しみなんだと伝わってくる。そんな嬉しそうなにつられて 僕も笑みを浮かべた。そして以前、葛餅を食べた時のあの独特の食感や甘さを思い出して、思わず口の中に涎が出てきた。 場所が図書室なので、僕とは小さな声で、まるで内緒話をするみたいに会話を続ける。 「女の子がいっぱい並んでてすごい恥ずかしかったんだけど、どうしても食べたくて買ってきたんだ」 その光景を頭に浮かべるのは簡単だった。 女の子の中に一人だけ並んで、身を縮こませる。 照れたように笑っているの反応を、僕は一瞬何の不思議も無く受け止めてしまった。違和感に気づいたのは、が中在家先輩に 話しかけに行ってからだった。細い線の後姿に、突然僕は事実を思い出してハッとした。 そして、が恥ずかしがる理由が本当はないのだということも同時に気づいた。 中在家先輩とが会話している姿を目にしながら、僕はなんだかわからないけれど、胸に違和感を覚えた。 格好は男のものだけどやっぱりは違うのだ改めて感じたのは、あの日以来だった。 (20130103) |