今日の朝、昨日佐助さんに教えてもらったとおりに着物を着てみようと自室で奮闘してみるも、昨日教えてもらったばかりなのに もうすでに着方を忘れていた。しょうがないので適当にそれっぽく着てみれば結構形になったので、満足してご飯をもらいに行こうと部屋を出たところで、 目の前を誰かにとうせんぼされてしまった。なんだ? と思って顔を上げると、お助けマンだった。

「私今からちょっとご飯食べてくるんで...」
「わかっている」

今は相手できないんですよ。と言おうとしたところでお助けマンに続きを言うのを防がれた。
すべてわかっている。というように頷いている。
ならそこをどいてくれ。

「だがその格好で行くつもりか?」

”その格好”と言われたので”どの格好?”と、反射的に自分の格好を眺める。
確かに着物は少しおかしいかもしれないけど別にそこまで気になるもんじゃない。
すっぽんぽんなら問題だけど、一応服を着てるんだし...と思っていると「そういう問題じゃない!」とつっこまれた。 エスパーのように頭の中を読まれたことに恐怖を感じて、佐助さんだけじゃなかったんだと慄く。

「怖い...頭の中を読まれた...!」
「口に出していた」

どうやら佐助さんのようなエスパーではなかったらしい。
そのことにホッとするのも束の間、今出たばかりの部屋の中に引きずりこまれた。

「お腹すいたんで後でもいいじゃないですか」
「だめだ」
「えぇー」

そのまま昨日佐助さんにしてもらったときのように着物をきれいに着せてもらった。その間もあまりにお腹がすいていた私は、 「炎丸(仮)の姿で行きますからー!」と提案してみるも、無言でその提案は却下されてしまった。 ということもあり、私は今きちんと着物を着ている。
だけど着物って着慣れていないのもあるかもしれないけどしんどい。 帯で締められていることもあって、朝ご飯もお腹いっぱい食べることができなかった...。
正直制服の方が楽だから、制服で過ごしたいのだけどそれをすると佐助さん曰く「悪目立ち」するらしい。 だからあまり着ない方がいいと言われたのだ。その言いつけを守り、制服は部屋にたたんで置いてある。
「着物も着慣れたらそれが普通になるよ」という佐助さんのアドバイスに従って、私は今着物に慣れるべく、いつもであれば 炎丸(仮)の姿でだらけているところなんだけど、着物を着て幸村さんの部屋に座っていた。
正座をしているのがいいのかもしれないけど、そんなこと長時間できるわけがなく、私は足を崩して座っていた。 本当は胡坐でもかきたいところだけど、着物でそれは難しい。
幸村さんと佐助さんが二人で何やら話しているのをぼんやり眺めて、どうやら話が一段楽したのを確認してから私は佐助さんに話しかけた。

「そういえば」
「そういえば」
「...」
「...」

だけどちょうど佐助さんも私に話が合ったらしい。同じタイミングで同じ言葉を発したことで、変な空気が流れる。 幸村さんが「息がぴったりでござる」とか言っていたが、それは無視することにした。私と同じで佐助さんも無視することに決めたらしい。 何事も無かったように、だけど仕切りなおすように咳払いを一つしてから口火を切った。

ちゃんからどうぞ」

佐助さんの言葉に甘えることにして私は「それじゃ」と言ってからさっき言いかけた言葉を口にした。

「そういえば、幸村さんに着物似合ってるって言われました」
「ブッ!!!!」
「ちょ! もう、旦那汚い!」

私の言葉を聞いた幸村さんがすぐさま吹き出したので、佐助さんがそれを非難するような声を上げた。
幸村さんは口をパクパクさせながら、顔を真っ赤にしている。あ、やべ、と思ったのはその顔には見覚えがあったからだ。 だけど幸村さんはいつかのように「破廉恥!!」と叫びながらどこかに行ってしまうことは無かった。

「へえー」

佐助さんは真っ赤になった幸村さんを眺めてにやにや意地悪く笑った。あの顔はとても見覚えがある。見覚えがあり過ぎるくらいだ。 大体あの顔をしてる佐助さんには近づかないほうがいいという今までの経験から結論が導き出される。だけど幸村さんはこの場からそそくさ退散することは無かった。 幸村さんはそんな佐助さんの視線に気づくと真っ赤な顔をしながら「何を笑っている佐助ぃっ!!」と唾を飛ばしながら力強く叫んだ。

「旦那がちゃんには赤が似合うって言ったんだもんね〜」
「そっ、そそそういう佐助こそ言ったではないか!!」
「そうだっけ?」
「それに某が言ったのは炎丸(仮)のことだ!」

聞きたくなかったネタばれを聞いてしまった。
炎丸(仮)基準で選ばれた着物だったのか...。
ちょっとブルーな気持ちになったところで佐助さんは幸村さんで遊ぶのをやめたらしく(多分これ以上言うと叫びながら部屋を出て行くから)こちらに意識を戻してきた。

「それで? わざわざそんな報告をしてくれたちゃんの目的は?」

さすが佐助さん...話が早い。
私は待っていましたとばかりに立ち上がった。

「どうぞ! 佐助さんも褒めてもいいんですよ!」

さあ来い! と両手を広げて受け止めるポーズをすると、佐助さんはすぐさま嫌そうな顔をした。

口は不満げに「ええ〜」って感じに歪んでいる。だけど私はめげなかった。もう一度、どうぞ!という意味を込めて一歩佐助さんに近づく。

「あー、にあうにあう」
「棒読み!!!!」

私の執拗な要求に佐助さんはやがていやいやと言う感じで答えた。あまりにも心がこもっていないところが気になるものも、 これ以上言ってもうざがられるので諦めることにした。(まあ、すでにうざがられてるけど...)