「なに、誰でも一度くらいは失敗するものだ...」
「...」
「だからだな...その、あまり落ち込むな」
「...」
「佐助には黙っておく」
「...」
「皆にも口外せぬよう言っておくから...」
「...」

弱ったようにいつもの幸村さんらしくない調子で話しけてくるのを聞きながら私はむっつり黙って寝転んだまま反応しなかった。 感じが悪いのは重々承知だ。けど、落ち込むものは落ち込むのだ。まず、幸村さんを叱る前に自分のことを気にしろ ってんだ! 申し訳なさと空回りの行動に恥ずかしさを感じて猛烈に穴を掘りたくなってくる。だが、ここは屋敷内で しかも幸村さんの部屋の中だ。そんなこと許されない。畳の上にぐてっと突っ伏して幸村さんの私を励ましているような 声を聞き流す。

「...分かった。くっ...今度、桃色の部分の団子もやろう!」

なんで断腸の思いで、みたいな感じなんだ。
そこまでピンクの部分はおいしいんだろうか。白いところとは比べものにならないほど.........はっ! あぶない。徐々に団子に思考を埋め尽くされる所だった。 反省中なのに団子のことを考えて忘れるところだった。考えろ、佐助さんが私に幸村さんを託していった気持ちを! 考えて思い返してみると佐助さんは私のことをとても信頼していたような顔をしていたような気がしないでもない。 私の事を頼り切っていたような気がしないでもない。
と、その時急に腕が伸びてきて抵抗する間も無く抱き上げられた。

「こうしたら安心するのだろう?」

見上げた先に微笑む幸村さんを見つけて、自分の状況が理解できた。多分私は大型犬の部類に入るだろうに、幸村さん しても佐助さんにしても簡単に私を持ち上げてしまう。流石、伊達に太ももが硬くて腹筋が割れてるわけじゃない。 朝の鍛錬中に見た幸村さんの腹筋を思い出して納得する。
そうこうしてる間にも部屋の奥に連れて行かれて下ろされた。上を向くように体をごろんと転がされて、なんだ? と 思っている間に隣に幸村さんが横になった。ぴったり私にくっついてお腹をなでなでされる。
意図が読めずに幸村さんの顔を見てみる。

「寝て忘れるのが一番だ」

一人納得したように頷きながら言う幸村さんに、えぇー....? と思わないわけではなかったけれど、幸村さんなりの私を 思っての行動だと分かったので黙っておいた。それに何を思ったのか、ふと小さく息を吐いて幸村さんが笑った。 なんだか見た事が無い大人っぽい笑い方に私は一瞬どきっとした。だが、それもすぐに吹っ飛んだ。

「やはり炎丸(仮)は臭いな」

すんすん、と鼻をひくつかせながら私の頭の匂いを嗅いでいる幸村さんにムッとして、
「わふわほ!(それじゃあ嗅ぐな!)」
と怒鳴ってぴったりくっついている体を引き剥がそうと幸村さんの胸に前足を当てて腕を張って距離を置く。が、すぐに背中に 手を回されて、ピンとはっていた前足を折りたたまれ、またぴったりとくっつけられてしまった。

「なんだ? 怒ったのか?」
「わん!(そう!)」

噛み付くように返事をするも幸村さんに反省の色は無く、それどころか笑みを浮かべやがった!

「臭いのだが、どうも癖になる匂いがする...」
「わんわふ!(やめろー!)」
「佐助も同じことを言っていたぞ」
「わおう!(あの野郎ー!)」

ますます鼻をすんすん言わせて私の頭の匂いを嗅ぐ幸村さんの胸をぼすぼす叩くも、あの腹筋を持っている幸村さんには 効かないらしい。恐るべき腹筋...!
だが癖になる匂いと言うのも少し納得してしまう。この世界に来る前に飼っていた愛犬も臭いのだが、ついつい匂い を嗅いでしまっていた。もふもふのお腹に顔を埋めてすんすんしたのはまだ記憶に新しい。
そうこうしてるうちに抵抗するのも空しくなって私は前足の動きを止めた。そうすると頭を撫でてくる幸村さんの手が 眠りを誘うものになってしまう。うつらうつらしてきて瞼を押し上げる力を弱め目を瞑る一瞬前、幸村さんがのドアップ は見えたかと思うと鼻に何かが当たったのを感じた。


.
.
.


「...それで? 旦那はなんで仕事できてないの?」

笑顔なんだが目が笑っていない佐助さんはそうとう怒っているらしい。地を這うような低い声に、ぞぞっと背中を何かが 駆け上っていった。咄嗟にあの強烈な匂いを思い出したが、私は佐助さんの怒りを一身に浴びている幸村さんを 救出すべく後ずさりしそうになる足を奮い立たせて立ち上がった。幸村さんは正座をして仁王立ちする佐助さんの前に座らされている。二人の間に滑り込み 私は佐助さんを見上げた。

「炎丸(仮)は向こうに行ってなさい」
「わんわふ!(いえ! 元はと言えば私の所為なんです!)」

厳しい声で言う佐助さんに負けじと声を張り上げる。

「わんわ!(叱るなら私を叱ってくださいー!)」
「炎丸(仮)、お前...!」

幸村さんが仕事を出来なかったのは私の相手をしていた所為なのだ!
私がうじうじ落ち込んでるのを励まそうとして色々してくれて一緒に寝てしまったからだ!
元凶はどう考えても私なのだ! 訴えかける私に佐助さんは少し困惑したような表情を浮かべている。

「炎丸(仮)が悪いわけがないだろう! 眠ってしまった某が悪いのだ!」
「わん!(違う! 私が悪いんだ!)」
「ぬぅ! ...炎丸(仮)はひっこんでいろ!」
「わぅ!(幸村さんこそひっこめ!)」

私の前に出てこようとする幸村さんに負けじと私も前に前に出て行って佐助さんのまん前に陣取ったが、佐助さんが後退 したためにまた隙間が空き、そこに幸村さんが体を捻じ込んで来たのでその前に出ようと幸村さんを押しのけようとする。

「...なんなの、全然話が読めないんだけどもしかして麗しい庇いあいが行われてるの...?」
「炎丸(仮)やめぬかっ!」
「ぅわんっ!(幸村さんこそやめろやっ!)」


「なんか俺様置いてけぼりで寂しいかも...」