「ちょっと聞いてよ! あのさ、ムフフ!」
「マジでだるいんだけど座学」
「今朝ね...クフフ!」
「あ〜、僕宿題してくるの忘れちゃった〜誰か見せて」
「食堂でね...」
「委員長のくせになにやってんだよ信じらんねぇ! むしろお前が俺に見せてくれないと!」
「あの...」
「知らないよ〜委員長だからって皆の宿題の面倒まで見てらんないし」
「...」
「そもそも宿題なんてあることがおかしいんだよ!」
「...ぐすっ」
「あっ、ちゃんと宿題してるじゃん! 写さしてもらおっと!」
「...」
「こいつ変に真面目だよな。アホなのに」

総スルーで誰も俺の話を聞いてくれない。泣きまねしても誰一人として俺の方を見ない。
こんな悲しいことってないよ! 俺はここに居るのにまるで空気みたい! それって!すっごく!不思議! いつもなら黙り込んで、空の青さや外で授業中の忍たまとかを眺めて、現実逃避しながら友達ってなんだろう?  耐え忍ぶってことなのかな?

―――なーんて自虐的に考えていた頃がわたしにもありました。

だけど真の友、田村くんに倣って友達なら作っちゃえばいいじゃん! って考えることにしたのです!! 新しい! 新しいよ、考え方が! さすが田村くんっ! 常識にはとらわれない考え方! 目から鱗!!

「別にえぇねん。もう、わいの友達は田村くんとジョアンヌだけやねん」

ジャジャーン
効果音を口で言いながらジョアンヌを取り出す。田村くんは火器が友達だったようなので俺もまねっこして手裏剣を 友達だと思うことにしたのです! さすが田村くん、こんなこと普通は思いつかないよ。会った時から只者じゃない とは思ってたけど、そんな人と友達になれるなんて...! 俺ってすごいラッキーな人なんじゃないの〜?ひゅ〜  今日は朝の挨拶だってしちゃったしー、親友まで後一歩ってところかな?

「きもい」
「ぎゃあああああ!ジョアンヌー!!」

ジョアンヌに向かって田村くんとの良好な関係について話していると突然横から腕が現れて握っていたジョアンヌを 奪い取って部屋の壁に向かって投げた。投げられたジョアンヌはカッと音をたてながら壁に刺さった。

!あれはジョアンヌちゃう!ただの手裏剣や!」
「違う!ジョアンヌはジョアンヌなんだよー!!」

慌てて壁に刺さってしまったジョアンヌを抜こうと走り寄るも背後から次々と手裏剣が飛んできてジョアンヌの周りに突き刺さった。
こ、これでは...ジョアンヌがどれだか分からない...!

「ジョアンヌがどれだかわかんないだろ? ジョアンヌは所詮はただの手裏剣なんだよ!!」

ピシャーン!
言ってはいけないことを堂々と指摘されてしまい俺はその場で固まった。
確かに俺はこのたくさんの手裏剣の中から友達であるはずのジョアンヌを見つける事が出来ない...。 それに比べて田村くんは絶対に見抜くことが出来るだろう...。
所詮、俺は田村くんのまねっこをしただけで...。

「よーし、じゃあジョアンヌはただの手裏剣だったっていう結論が出たところで授業だぞ」
「せんせっ! 見てたのに助けてくれないんですか?!」
「お前が正気に戻るまでの過程を暖かく見守ってやってただろ」
「最初から正気です!!」
「手裏剣に話しかけてるのは正気とは言えないんだ。、お前は知らないかもしれないが...!」
「田村くんは火器に話しかけてたもん!」
「田村は特殊なんだ!!」
「俺も特殊です!!」
「お前が特殊なことは知ってる!その上に特殊を塗り重ねるなって先生は言いたいんだ!これ以上濃くなってどうする?!この話はこれで終わり!」
「先生、なんか焦ってるんですか〜?」
「そうだぞ。授業進めないとただでさえ遅れてるから先生怒られちゃうんだ」

だからさっさと席に着けー! なんて先生が急かすので俺は渋々自分の席に座った。それから忍たまの友を開くも、 視線は外に向ける。校庭では一年は組がじょろじょろと土井先生と山田先生の後を付いて出て行くところだった。 私服を着ているところから見て多分課外授業か何かで学園外に行くみたいだ。うらやましいいいい!!
こうやって教室で先生の話を聞いてるばっかりより外に出て体を動かす授業の方がいい。それに何より土井先生と 山田先生が担任なんて羨ましすぎるんですけど! 俺なんて先生に相談事をしても大体流されちゃうし...。俺って空気なのかな?
土井先生と山田先生なら真剣に俺の悩みも聞いてくれるんだろうな、って考えると今すぐ一年は組に転入したくなった。 別に周りの子達の身長が腰辺りでもそんなの気にしないし。っていうか友達になってくれるなら喜んであの小さき者 たちの中に飛び込んじゃうし。一人だけ浮いててもそんなのどうでもいいし。手を繋ぐ時だって中腰になるし。 それで腰を痛めることになっても本望だし。
はぁ、とため息をつきながら校庭を移動する集団を羨望の眼差しで見つめていると一人の子が突然こちらを振り返った。 やばっ! と反射的に机の下に身を隠そうとしたけど、俺の熱すぎる眼差しのせいで気付いたのかなんなのかその子はあろうことか笑みを浮かべて手を振ってきた。

「うそッ!!」

急に立ち上がった衝撃で膝を机に思い切りぶつけてしまったけどそんなこと気にならなかった。急いで窓から顔を出して誰か 手を振っていないか確認するも、俺以外に人は居ないようだった。
え! じゃ、じゃあ、あれってもしかして俺に向かって手を...?!?!
バッと勢いよくもう一度その子を見遣るとその子は変わらずにこにこしながら手を振っている。

「あ、喜三太じゃん。手振ってやれよ」

いつのまにか皆が俺の周りに集まって窓から外を覗いていた。

「え、え、え、手振ってもいいかな?!」
「っていうか振ってあげなきゃ〜」

委員長の一言に押されて俺は思い切って手を振り返した。
「思い切ったわりにちっちゃ!」というツッコミがすぐさま聞こえたが華麗に無視して俺は一年は組の子達に手を振った。 すると不思議なことに手を振ってくれている人数が一人から二人に...三人から六人と増えていくではないかっ!
何人もの小さき者たちが...俺に向かって...手を...振っている...!!

「きゃあぁ! あ、あんなにたくさんの子達が俺に向かって手を振ってくれてる...!!」
「よかったなー」
「ありがとう!ありがとう!」
「土井先生と山田先生苦笑いしてる」
「...ねぇ、手を振り合った仲なんだからもうこれは友達だよね?」
「それは違うだろ」

何ていい子たち! 一年は組の子達はいい子たちだと俺は感激しながら頭の中にインプットした。 土井先生と山田先生がこのままでは埒が明かないと声を掛け、は組の子達が無事に学園を出て行くまで俺は見守った。


「先生が怒られるって言ってるのにお前達は全然先生の言うことを聞いてくれないね...」