花霞を纏う人








神様仏様お願いします今度生まれてくる時はきれいな顔にしてください。

この切実な願いは神様に届いたらしい。生まれ変わった俺はそりゃあもうアイドルもまっつぁおになっちゃうほどの 綺麗な顔になっていた。やっほーい!これで人生薔薇色!アイドルへの階段を駆け足で上っちゃうのね!!

―――なーんて思っていた頃がわたしにもありました。

せめて、せめて...生まれる年代がもう少しずれていたら...!と悔やまずにはいられない。だって俺が生まれ変わっちゃった 先ってば室町時代らしいよ!流石の俺もまっつぁおでござる!!アイドルとかいねーし!

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そりゃあもうかわいいかわいいと父さん母さん兄さんについでに言えば近所の人たちから可愛がられて育った俺だけど、この顔に生まれて 良かった事って一度も無いかもとか気付いたのは九歳の頃だった。その頃になると前世の記憶もだいぶうっすらと なってしまって、ただのそこらの九歳と変わりなくなっていたが、イケメンに生まれ変わりたいと神様仏様に願った事は覚えていた。ついでに言えば、せっかく こんな綺麗な顔に生まれたのにアイドルになれなかったことが悔しすぎてそれも覚えてた。だってファンの女の子たちに ちやほやされたかったんだもん! 今思っても悔しくて涙が出ちゃう...ぐす...。
その願いが叶うだろう顔を手に入れたという のに、室町時代って...もうー冗談はよしこさん!みたいな感じだし。
まぁ、その話は置いといて。
とにかくこの顔に生まれてからというもの変な人たちにさらわれそうになったり売られ そうになったりとそりゃあ苦労してきた。変な趣味の人達の琴線に触れてしまうどころか、かき鳴らしてしまう顔だったらしい。こあい!!
その割には同い年くらいの子達はみんな俺と関わろうとしない。その子達の親や、近所のじいちゃんばあちゃんは よく話しかけたりしてくれるんだけど、同じ年頃の子たちは寄っても来ない。近づけばそそくさと逃げていってしまう。 なんで?! とショックを受けて心に傷を負った俺が考えた結果は美的感覚が元の世界とここ室町では違うということ だった。現代ならきっとうけていたであろう俺の容姿はここでは不気味なのだ。
近所の大人が良くしてくれるのはそんな俺に同情してとか...? という結論を導き出してしまった俺は悲観にくれ、 この時代の美的感覚を呪った。そしてそんなある日、悲しみの涙を流しながら一人で川を見ながら黄昏ていた時、またしても さらわれた。麻の袋に詰め込まれながら、一般人には支持されない顔してるのに何でこういう変態っぽい人達のうけは いいんだろうと半ば諦めの境地で考えていたら、黒い人に助けられた。全身黒尽くめで怪しさ満点な上に顔には包帯を ぐるぐると巻いていた、これ以上ないほどに怪しいその人はあっというまに人攫いをやっつけてしまった。
すごい!とヒーローを見る時の目でその人を見つめるとその人は満更でもなさそうに頭をかいた。大丈夫かい?と 聞かれたので、こんなのは日常茶飯事なので大丈夫だと答える。その顔じゃ無理ないねぇ、と言われた。
変態に好まれる顔だと言われているのは分かった。

「おじさんみたいに強くなったら攫われないかなぁ?」
「そうだねぇ。おじさんじゃなくてお兄さんね」
「おじさんは一体何者?」
「お兄さんね。...うーん、何者だと思う?」

やたらとお兄さんと言わせようとするので、面白くなって意地でもおじさんと言うと自称お兄さんも意地でもお兄さん と言わせようとする。
おじさんの問いかけに、うぅんと唸りながら考える。ヒーローって日本語にしたら......

「分かった! 正義の味方?」

自信満々に答えたのだが、どうやらおじさんの答えとは違っていたらしい。今度はおじさんが、うーん。と唸った。

「違うの? おじさん」
「お兄さん。さぁ、どうだろうねぇ」

それなりに悪い事もしてるから。と、何かを思い出すように目を細めるおじさんに俺はなんだか触れてはいけない のかと思い黙った。家まで送ってくれたおじさんにお礼を言うと、唯一見えてる目が細まった。どうやら笑っている らしい。背中を向け歩き出したおじさんにもう一度ありがとうと叫ぶとおじさんが何を思ったのか歩き出していた足を 止めてこっちに近づいてきた。不思議で首を傾げるとおじさんがこしょこしょ話をするみたいにして耳元で、いいかい 。と囁いた。その低い声にぶるりと鳥肌が立った。

「君はこれからもその容姿で苦労する事になるだろう。なら、せめて自分で自分の身を守れるようになった方がいい」
「どうやって?」
「...忍術学園という所があるんだ。そこで体を鍛えたらどうだい?」

忍術学園?? 忍術というのだから忍術を勉強する所なのだろうか?
詳しいことは語らずにおじさんは姿を消した。ほんの一瞬、風が吹いたと思ったら消えていたのだ。...不思議なこともあるもんだ。 その後すぐに俺は父さん母さんに忍術学園に行きたい! と言ってみた。自分の身くらい自分で守りたい! と、熱く 語ったところ二人はとても感動してあれよあれよというまに入学することになった。