助けた見返りを求められているのだとすぐにわかった。 そして私達が――私が、それを拒否するという権利は無い。 「わかりました。私が煌帝国へ参ります」 「雪美!!」 母が背後で私の名前を呼んだのはきちんと聞こえたが、私は振り返らなかった。 目の前にいる男から目をそらしてはいけないのだと思ったからだ。視線をそらしてすぐ、切りつけられるということはないだろうが、 それでも目をそらすのは危険なことだと本能が訴えかけてきた。 真っ直ぐ見つめ返し、どれだけの時間が経ったのかわからないが、長い時間が経ったように感じた。 「...ではすぐに準備を」 それだけを告げて、外需を翻して男は部屋を出て行った。 姿が見えなくなると、ようやく息をすることが出来た。何かわからない緊張感から開放され呼吸をすることが許されなかったのだ。 スッと息を吸い込むと久々の酸素に、喉がびっくりしたように震えた。 「雪美...」 背後を振り返ると、そこに今にも泣きそうに悲痛な表情を浮かべた母がいた。父は黙って、こちらを見ようとはしない。 この場面ににつかわしくはないと知っていながらも、私はへらっと笑いながら言葉を紡いだ。 「使い道が無いと思われてすぐに帰らされることになるよ」 これはただの気休めだ。だってここで今までのように暮らすことが出来るとは思わない。 何か理由をつけて煌帝国で足を止められてしまうことになるのだろう。 自分に使い道が無いとは思えなかった。 それを両親共にわかっているのだろう。何も言わない二人に、途端部屋の中の空気が重くなるのを感じて私は準備をするとだけ告げ、部屋を出た。 |