審神者は、本来であれば男女関係なく素質があれば選ばれるものと言うことらしいが、女の場合は刀剣たちが男と言うこともあり、 何やらいろいろと面倒な色恋沙汰を起こしてしまうことがあるらしい。
そのこともあり政府は男の審神者を積極的に採用することにしたらしい。と言っても、そうそう男ばかりが素質を持っているわけではなく、 余計に人手不足になってしまったのでその試みはすぐにおじゃんになった。 (それに噂では男でも関係なく痴情の縺れ的なことが多発しているらしく、男も女も一緒じゃね?ってなったんじゃね?ってことらしい) だけど、俺はそのお試し期間に当たったお陰で合格出来た。
素質は十分あるということだったのだけど違うところで躓いた。いろいろと小難しいことを学んで筆記試験というものを受けたものの、ちょっと自分でもだめだったかもしれないと思っていたのが合格になったのは多分そのお試し期間のお陰だと思う。 マジラッキーって感じてこうして俺は審神者になった。
人間社会で生活をするのは俺は少し向いていないらしいというのが今まで生きてきた経験から導き出した結論だ。 何もかもこの顔が悪いのだけど...! 神様はどうしてこんな試練をおあたえになったのだろう??
あまりにも整った顔をしていると本当の友達と言うのは少なかった。
いや、ほんとはできたかもしれないけど、俺は作るのが下手だったらしい。
相手が同じ男だというのに襲ってこようとする輩が多いし、か弱いと思っていた女の子にも襲われたことがある。人間ってこわい!と恐怖を覚えるまでには時間はそうかからなかった。 幼少期からの度重なる出来事に俺は人と関わるのが怖くなってしまったのだ。
孤高の存在爆誕ってわけ。
そこで審神者としての能力があるということがわかり、どういうものなのか知っていけばいくほどに俺はそこに希望を見出してしまった。 えっ、友達出来るじゃん! と思ったのだ。友達ではなく使役するようなものらしいけど(神様を使役するってそこんとこどうなの?って感じだけど)そんなことは関係ねぇ!!
こういっちゃ何だけど権力を持っていれば強制的に友達になれるじゃん!って感じだ。
刀剣男士は審神者があってこその存在らしいし!その立場利用しちゃお☆って感じ。

「だからそんなに改まった感じじゃなくていいんから! もっと砕けてよ」
「(...だから?)いえ、そのようなことは...!」
「えぇー、いいじゃないのぉ!!」

目の前のへし切り長谷部は困惑して、困り果てたように身を縮めている。
この真面目な男は主である俺には全然砕けて接してくれない。いつも背筋をピンと伸ばしてピシッとした佇まいをしているのだけど、だからといって誰にでもというわけではない。 他の人たちには気軽さのある態度をしているのに俺だけこれってハブじゃない?! そう思い至って報告がてら部屋に来てくれた長谷部に交渉してみることにしたのだ。
その長谷部の硬く握られた右手を白い手袋越しに取り、両手で撫でてみれば目の前の顔がカッと赤く染まった。やべ、怒らせちゃったかも。 少し前に流行った芸人を真似てみたものの、その冗談がこの男に通じるかといえばそんなわけもないだろう。
慌てて手を引いて愛想笑いを浮かべてみるものの、長谷部の顔は相変わらず赤い。
とんでもないセクハラ審神者だと思われてしまったかもしれない。俺が大嫌いな人種に...。
軽い冗談でそんなつもりはなかったのだけど、されたほうはとんでもないだろう。むさい男に手を握られたら嫌だろう。 それも撫で回すように触ったから...そのダメージは計り知れない。きっと今長谷部のダメージを図ったらスカウターぶっ壊れる。

「ご、ごめん...! きもかったよね! これからは触らないようにするから!」
「い、いえっ! ...そのようなことは...」

矢継ぎ早に言葉を重ねれば、相変わらず顔を赤くしたままもごもごと長谷部は何かを口の中で言っている。 このまま有耶無耶な感じに終わらせてしまおう。何もなかったかのように...! そう、最初から手なんか握って撫で撫でしていなかったかのように長谷部に思いこませよう...!

「もう慣れた? ここでの生活」
「...あ、はい。」

少々強引ではあったものの急な方向転換をした会話に、だけど長谷部は答えてくれた。
このまま押し通すぞ、何もなかったかのように...!

「そっか、いや〜よかった。やっぱり生活に慣れてないってなると仕事のほうも捗らないだろうしね。日々の生活が反映してくるって言うか」

適当100%でそれっぽいことを言って先ほどの自分の過ちを有耶無耶にするという作戦は成功したらしい。
目の前の長谷部は俺の言葉を聞くや否や感動したように口元を右手で押さえて「そこまで俺...いえ、我らのことを...!」とか言っている。 確かに日々の生活が戦闘に関わってくるとは思っているものの、適当に言っただけなのでそこまでの反応が返ってくると罪悪感を感じた。

「い、いや、まぁ言いたかったのはそんなところだから...何かあったら気軽に言って」
「はい! お心使い感謝いたします!!」

「それでは失礼します!!」と無駄に声を張り上げながら元気よく長谷部は出て行った。
...よかった。どうやら先ほどのセクハラについては忘れたようだ。とホッと息を吐いたのも束の間、長谷部の様子を見た光忠と加州が大騒ぎを始めるのはそこからすぐのことだった。