*前置き
「薔薇色クライシス」 の犬(狼)になることができる現代の主人公(女子高生)が五部の世界にトリップした話です。
戦国BASARAの世界では飼い犬として可愛がられてきているので、自分が可愛いと自負しているわんこ(中身女子高生)です。
優しい世界なので死んだはずの人も生存してたりするゆるい話です。




「......どうしたんだ、これ」

でかくて黒い人が私を指さしながら困惑したように尋ねるのにブチャラティさんは少し困ったような顔で答えた。

「ナランチャが拾ってきてな」
「だって一人だったんだぜ! ボロボロの今にも崩れそうな段ボールの中で震えてたんだッ! 置いてこれるわけないだろ!!」

すかさず反論したナランチャの言葉は結構脚色されているように思う。実際は今にも崩れそうなほどボロボロの段ボールってわけではなかった。比較的きれいに見える段ボールを選んだのは私だし。いや、でももしかしたら私の体が入るような大きな段ボールがなかったので、無理やり小さめの段ボールに入っていたから多少は形を崩してしまっていたかもしれない。
震えていたか、に関しては可哀そうな雰囲気を作り出すためにもしかしたら震えていたかもしれない。いや、もしかしたら素で震えていたかも...! だって低血糖とかになると震えるっていうし! ここに来てからはお菓子なんか食べられることはなかったし...そう考えると幸村さんから団子をもらって食べられていた生活は夢のようだったのかもしれない...。幸村さんはケチだから数的にはあまりもらえなかったけど、それでも三食団子の白いところはわけてくれたんだし...。

「ほら見ろよ! アバッキオがひどいこと思い出させるからコイツ、また悲しそうになっちゃったじゃあねェか!!」
「オレは何も言ってねェよ」

団子が食べたい...あの佐助さんと幸村さんに可愛がられる生活が恋しい......ついそう考えてしまっていたからだろう。私は悲しそうな雰囲気を出してしまっていたらしい。ナランチャにぎゅっと首を締めあげられるみたいに抱き着かれて「オゥ」と外国の人みたいな声が出てしまった。ぴったりと張り付いてくるナランチャがスンスンと鼻を鳴らすので匂いを嗅いでいるのがわかった。正直やめてほしい。お風呂入ってないし。

「なぁ、ブチャラティ......」

いかにも今から何かをおねだりします!という甘えたナランチャの声音に私は背筋をピンとたてた。今からが正念場だ。

「飼ってもいいだろ? こいつ一人ぼっちでかわいそうなんだ...」
「くぅん...(そうなんです...かわいそうなんです...)」

この世界でやっていくためにはまずは飼い主を見つけなくちゃいけない。その飼い主になってくれそうな人がようやく見つかったのだ。私は気合いを入れ、眉をハの字に垂らし、目をきらきらと潤ませ耳を垂らした。この顔をすればい大抵のことはうまくいく。そのことを私は愛犬から学んでいた。その学びは私がわんことなった今、とんでもなく役に立っている。
ブチャラティさんは私とナランチャのダブルお願いビームを受けて、眉根をきゅっと寄せた。
この顔は少なからず効いている...!!畳みかけるのだ!今こそ!!

「くぅ、くぅん...(ブチャラティさん...私かわいそうなんです......)」

同情心を煽る声を出しながらずりずりとブチャラティさんにすり寄る。鼻をふくらはぎのあたりに一度擦り付けてブチャラティさんを見上げる。
この仕草にキュンとしない奴はいないはずだっ!!!くらえっ!!!!
ブチャラティさんは暫くそのまま動かずに固まっていたが、まるで抗えないとでもいうようにしゃがみ込むとついに私の頭を撫でた。この好機を逃すわけにはいかないと、今だ!! とその手の中に頭を押し付ける。撫でてもらえてうれしい〜〜〜!!!! という雰囲気をだすべく、立ち上がってブチャラティさんに抱き着いて尻尾をぶんぶん振り、鼻をほっぺたにくっつける。鼻先は鼻汁で湿っているのでブチャラティさんのほっぺたを汚してしまうことになるけどまぁそんなことは些細なことだ。べちょ、と遠慮せずにくっつければ、ほっぺたに鼻がめり込んだ。傍から見ればブチャラティさんの頬にでかい犬がぶっ刺さっているように見えるかもしれない。

「こらこら、重いぞ」

笑いを含んだ声であることからもブチャラティさんが嫌がっていないことが伝わってきた。
当たり前だ!! だって私かわいいし!!!!

「な? ブチャラティ、こいつめちゃめちゃかわいいんだよ! 見かけはでかくて怖いんだけどよぉ」
「わおん!!(でかくて怖いは余計なお世話だ!!)」
「なんだよ、そんな怒んなよ〜〜」

思わず振り返ってナランチャに反論してしまったが、全然そんなこと気にしてなさそうだ。またしても私の背中にぴったり張り付いてきた。そしてまたしてもスンスンと鼻を鳴らす音が聞こえる.......こいつ、また私のにおいを嗅いでやがる...。幸村さんの顔が頭に浮かんで少しだけ悲しくなる。幸村さんも私のこと臭いってよく言ってたくせによく匂いを嗅いできてた...今頃なにしてるかなぁ。私と会えなくて悲しんでることは容易に想像できた。

「アバッキオも撫でてみろよ!」

でっかい人はどうやらアバッキオさんというらしい。さっきから威圧感たっぷりにこちらを見下ろしているので正直ちょっと怖い。
ナランチャの誘いに一瞬怯むようにぴくっと大きな体が揺れたが、ぷいっと顔を背けた。

「......オレはいい」

なんだってーーーー?!?!?!?!
この私を撫でないだって?! そんな選択肢存在したのか?!?!

「アバッキオ、大丈夫だぞ。噛まないから」

ブチャラティさんの言葉にハッと我に返る。あまりにもな衝撃にちょっと頭が停止してしまっていた。
そうか...このアバッキオさんは見かけはわんこなんかよりもだいぶ怖いのにわんこが怖い人だったのか...。そうと分かればこっちにだって余裕が生まれるってものだ。私が怖くないよ、大丈夫だよ? って優しくしてあげなくてはいけないのだろう。でかい図体してて威圧感たっぷりなくせに可愛いとこあるじゃん。ふふん。
わんこが怖いらしいことが分かれば、途端に心に余裕が生まれた。
ブチャラティさんに頭をなでなでされ、ナランチャを背中に張り付けたまま尻尾をぱたぱた振ってアバッキオさんを誘ってあげる。
アバッキオさんはちらっとこっちを見たかと思えばまたぷいっと顔を背けてそのままソファに座った。足長っ!!

「......」
「......」
「......」
「...そういうんじゃあねェ」

そういうんじゃないってなに?!?!?!?!
たっぷり間を取って意味深な沈黙の後の言葉としては些か言葉足らず過ぎる!!この私の誘いに乗らないだと...?!
衝撃的な出来事にまたしても頭が停止したのは少しだった。さっきのこともあって再起動までそう時間がとられなかった。 やや心に焦りが生じているが、オーケーオーケーと自らに語り掛ける。多分、私のことを怖がっているのを見られるのが恥ずかしい、そういうことだろう。オーケー。 周りの目があるからとかそういう感じだろう。オーケー。私の可愛さに意地を張って抗おうとする気持ちはわからないけど、まあプライドみたいなのがあるのだろう。
物わかりのいいふりをしながら、私は心に誓った。
アバッキオさんが「よしよし」と、思わず笑顔になりながら私を撫でてしまうように私の魅力を見せつけてやる!! と!!