![]() 何だか最近“ん?”と首を傾げることがよくある。 それはある一定の法則...というよりも具体的に言えばある人と居る時に起こる。 「なんか分からないんだけどもしかしてだけど私の勘違いかもしれないけど...」 「何よもう! 早く言いなさいよ」 向かいの席に座っているネイサンが焦れたように声を上げた。ネイサンを焦らしたくてこんなに回りくどくなった わけじゃなくて、とても言いにくい話だから前置きが長くなってしまったのだ。私はテーブルの上に置かれたグラス を手にとり、冷たいオレンジ色の液体をごくっと飲んだ。乾いた喉にオレンジの爽やかな香りが通り抜けた。 ネイサンは早く言いなさいと言いたげに片眉を上げていたけれど、言葉にはしないで待っていてくれた。 乾いた唇を舐めてから私は小さく息を吸って口火を切った。 「あの...スカイハイさん変じゃない? 最近...」 「アンタ...まだスカイハイさんなんて呼んでるの?」 「え?」 「ヒーロー名じゃなくて名前で呼んであげなさいよ」 「え? う、うん...」 ネイサンの責めるような口調に私の返事は思わずしどろもどろなものになってしまう。 確かに結構仲良し(......なのか?)なのに、未だに私はスカイハイさん呼びでだいぶん他人行儀かもしれない。 実際私は他のヒーローたちのことを名前で呼んでいるのに考えてみればスカイハイさんだけヒーロー名呼びだ。 それもスカイハイさんは私のことを彩くんと呼んでくれている。 別に成り行きでそうなっているだけだというのにその事実に気付いた今、私は罪悪感を覚えた。そういうつもりは 無かったのだけれどもしかしてスカイハイさんは疎外感を感じていたんじゃないだろうか? 気付かなかったから とは言い訳にはならない。私はこの事態を重く受け止めた。 「わかった。今度から名前で呼ばせてもらう...」 「そうなさい」 しんみりとした私の声と表情に何を思ったのか、ネイサンは仕切り直しするように明るい声を出した。 「それでなんだったかしら? スカイハイが変って話?」 「あ、うん...」 相変わらずテンションが下がったままの私にネイサンは呆れた表情でため息を零す。だけどテンションは上げれそうに 無い。だって今こうしてスカイハイさんが最近変だってことをネイサンに言っていることで陰口を叩いてるような 気分になってきたのだ。一人だけ名前で呼ばない上に、影でこそこそネイサンにスカイハイさんは変だなんて話をしているなんて...。 こうやっていじめってやつは生まれてくるんだろうか...。 「ちょっと、黙んないでくれる?」 「...うん」 いじめなんて絶対にいけないことだと思っていたのにいつのまにか自分がその立場になっているなんて...自分が信じられない...! ごちゃごちゃと頭に浮かぶのはどれもこれも気分を落ち込ませるようなものばかりで、私はすっかり肩を落として 虚ろにテーブルの上をぼんやり見ていた。 今日はスカイハ...じゃなくて、キースさんの様子が変だとネイサンに話そうと 思っていたのに、まさかのいじめ(未満)発覚に私は動揺していた。もう、こうなっては話す気分じゃない。 「まぁ、変にもなるんじゃない?」 ネイサンは私の周りを漂う負のオーラにちょっと迷惑そうな顔をしながら何てこと無さそうに言った。テーブルの真ん中に置いてある ポテトフライをショッキングピンクでコーティングされた爪で摘まみあげて、ひょいっと口に放り込むと眉を少し寄せて「塩が足りないワ」 と呟いて机の上に備え付けられた“salt”と書かれた容器を手にとってポテトめがけて振った。 透明の結晶がポテトに降り注ぐのをじっと見つめながら私はネイサンの言葉に耳を傾けていた。 「アンタと念願叶って恋人同士になれたんだから」 ......ん? 顔を上げるとちょうどネイサンが長細いポテトを口に運んでいるところだった。けど今度のはさっきより塩が多め。 私は先ほど聞こえた言葉が空耳かなにか、それとも私の耳がいかれたのかと思ってネイサンに問う意味で見つめた。 「多めにみたげなさいよ」 「......なにを?」 わけが分からないとぽかんとネイサンを見つめる。ネイサンは「ちょっと、もー勘弁して」みたいな顔をして、 わざとらしくため息を吐いた。勘弁してとか言われても意味が分からない。 「だからぁ、アンタと恋人同士になれて...」 「え?! いやいや...恋人?」 空耳でも、私の耳がいかれたわけでも無かったらしい。ネイサンは何か驚くべき勘違いをしていそうだ。 それとも性質の悪い冗談か...けれどそれは向こうも思っているようだった。ネイサンはネイサンで私が性質の悪い冗談を 言っていると思ったみたいでちょっとだけ眉を吊り上げた。 「アンタ...趣味悪い冗談やめなさいよ。付き合ってんでしょ?」 「...誰が?」 「ちょっと...決まってんでしょ」 「...私と? スカイハイさんが?」 ネイサンは真面目な表情で、私も真面目な表情で数秒見つめあった。 「...」 「...」 二人とも口を噤んだので自然とここら一帯は静かになった。けれど店内には他のお客も居るので当然ざわついた 音が耳に届く。だけどそれはただの雑音で、意味なんて無いものだった。店内に流れる曲が何なのか分からないほど私は頭が混乱していた。 だって私とスカイハイさんが? 付き合ってる...?! 衝撃的過ぎるその言葉は多分今まで生きてきた中でナンバーワンに輝くほどに衝撃的なニュースだった。 ネイサンの手の動きもすっかり止まり、私たちは一心に机の上を見つめて自分の考えを纏めようとしていた。 先に我に返ったのはネイサンだった。 「...アタシ、何も聞いてないわ」 「ちょちょちょ、ネイサン待って!」 「嫌よ!」 立ち上がってそそくさと自分の荷物を持って、今にも帰ってしまいそうなネイサンに私は慌てて縋りついた。 ネイサンの逞しい腰に腕を回して絶対に逃がさないと縋りつく。ネイサンはネイサンで私を腰にくっつけたまま 外に出ようとしたので、店内中の視線が私たちに向けられる結果となった。 (20120727) |