プランニング




結局私が全然心当たりが無く、助けて〜!と、ネコ型ロボットに泣きつくみっともない少年のように縋ったことで、 何だかんだ言いながらもネイサンは謎解きの手伝いをしてくれた。
謎解き、と大層なことを言っても箱を開けてみればたいした問題でもなかったのだけれど...言ってみれば勘違いだった。 けれどこの場合の勘違いは「なーんだ、勘違いだった」で、終わるような簡単なものじゃない。
こんな規模のでかい勘違いを私は今まで味わったことが無い...。どうやって誤解を解くか、そればかりを考えていて 今日一日の記憶がおぼろげだ。上の空でどう見ても様子がおかしかったらしい私は今日何度も「どうしたの」 と聞かれたが、正直に話すことが出来ないので、「何でもない」と下手な笑みを浮かべて答える以外に出来なかった。
良い案が浮かばないまま帰宅時間になったので、肩を落としながらロッカールームに向かった。
そこで、 今日一日私の頭から離れなかった人に下がった肩をぽんと叩かれた。

「そろそろ帰るかい?」
「おっ、あ、...はい!」

挙動不審にあらぬ方向を見ながらこくこく頷いて答える私は、昨日判明した出来事によってスカイハ...じゃなかった、 キースさんをまともに見ることが出来なかった。
視線の照準がどうみてもおかしい私に、首を傾げる姿が横目で見えた。だけどキースさんは何も言う事無くロッカールームへと歩いて行った。 バタン、とドアが閉まった音を確認してから私は大きく息を吐き出した。

「どうしたの? 
「...なんでもないよ、パオリン」
「そう?」
「そう」

頷くと、パオリンは不思議そうな表情を浮かべたものの、それ以上は追求してこなかった。
変わりにキースさんが消えたロッカールームの方を見てからにこにこ笑う。

「今日もスカイハイと帰るんだね」

覗き込んできたまるい瞳に口端を上げて答えながら私はロッカールームへとのろのろと歩を進めた。
今日も、か。確かに言われてみれば今日もだ...。

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私とキースさんに行き違いがあったのは二週間ほど前のことだった。
じゃんけんに負けた人がアイスを買いに行く。という提案を出したのは多分虎徹さんだったと思う。
意外にも乗り気で皆が手に力を込めてそれぞれの運命を掛けてのじゃんけんに挑んだ。(意外なことにカリーナとバーナビーさんまでも) その結果、一人チョキを出したキースさんが負け、外へのアイス買出しミッションに行く事になった。
その日一日どこか様子が変だったキースさんは一人一人のアイスの注文を繰り返しながら、いつもの元気はどこへ行ったのか 、思いつめた様子でトレーニングルームを出て行った。
「バニラ...ソーダ、チョコ......ミント?」とか上の空で呟きながら歩く姿はどうみても変だった。 その姿に不安を覚えたらしいパオリンは出て行く直前までキースさんに張り付いて、バニラチョコストロベリーなど、 みんなの注文を叫んでいた。

「スカイハイさん、どうしたんだろ」

スカイハイさんが出て行ったドアをみんなが見つめている中で私が最初に口火を切った。
「どこか様子が変でしたね」
思いがけずバーナビーさんの同意を得られ、私はそちらの方に視線を移した。
「元気が無かったわよね」
と、カリーナ。
「そうだなぁ。話しかけても全然聞いてねぇ感じだしな」
と、虎徹さん。
「今日は一日あんな感じだな」
と、アントニオさん。
「スカイハイさんが元気が無いなんて...どうしたんでしょう」
と、イワン。
「スカイハイが元気が無いなんて、きっとよっぽどのことだよ!」
と、パオリン。
「ねぇ、心配だから見てきてあげて」
そう言ったのはネイサンだ。私としても言いだしっぺであるし、当然様子のおかしなスカイハイさんが心配でも あったからじゃんけんには勝ったもののスカイハイさんと一緒にアイス買出しミッションを行う事を了承した。 部屋を出る前にどのアイスを買うかパオリンに復唱させられ、頭の中にチョコ、バニラ、苺ミルクなどと叩き込んで から走ってビルから飛び出した。
スカイハイさんには結構簡単に追いついた。何事かを考えて、上の空の様子のスカイハイさんの足取りはいつもよりもゆっくりだったらしい。

「スカイハイさん!」

その少し猫背気味の後姿を見ただけでいつもと様子が違うのだと分かった。声を掛けると、びっくりした ようでその場で僅かに飛び上がり、こちらを振り返った。まんまるな青い目が驚きに見開かれるのに笑いかけながら その隣に滑り込んだ。

くん...?」
「はい。あの、」

何故じゃんけんに勝ちながらここに来たのかを説明しようとしたところで、キースさんの様子がさっき以上に変に なったのを目にし、気付けば中途半端に声を発して言葉は途切れた。驚愕に見開かされた目が、普通の状態に戻った と思うと頬が赤く染まった。唇はきゅっと力が入って、視線は周りを飛ぶハエを追いかけているように彷徨っている。 思わずそこに何か居るのかと視線を追いかけてみたが特に何も無かった。一体キースさんには何が見えているんだ。

くん!」

ぽかんと口を開けて、スカイハイさんには見えていて私には見えない何かを探そうと視線を彷徨わせて自分の頭上を 見ていると、突然名前を呼ばれた。びくっと体を震わせながら驚いて名前を呼んだ人を見る。 真剣な表情をしたスカイハイさんに、自然とこちらも行儀良く両腕は体の横にぴたりとくっつけて、気をつけの姿勢になる。 何だろう、何を言われるんだろう...。いつになく緊張した面持ちのスカイハイさんに、私もつられて鼓動が早まった。

「つっ、」

つ?
スカイハイさんが何を言いたいのか読めずに首を傾げる。頬とは言わず、顔全体が赤く染まったスカイハイさんは 片手で胸を掴むようにシャツを握ると俯いて小さい声で何かを呟いた。それが聞き取れずにますます頭に疑問符を 浮かばせていると、ぱっと勢いよくスカイハイさんが顔を上げた。

「つきあってもらえないだろうか...!」

顔は赤くてどこか切羽詰っているようにも見えるスカイハイさんの様子に私は一瞬なぜそこまで必死なのだろう?  と考えたが、すぐにそれらしい理由に思い至り、そうか。と一人納得した。

「もちろんです」

返事をした次の瞬間、さっきまでのどこか緊張した様子だったのが、ぱぁっと見事な満面の笑顔に変わった。 そして興奮したように両手を取られ「ありがとう! そしてありがとう!」とお礼を言われる。
ぎゅっと握られた手と、スカイハイさんの勢いに押されながら私は「いえ、そんな」とだけ返すのでいっぱいだ。

「これからもよろしく」
「はい...? こちらこそ」

これからもよろしく、なんてアイスを買いにコンビニにちょっと行くだけなのに大げさじゃないだろうか...そう思いは したものの、相手はスカイハイさんなのだしと納得した。それと同時にそんなにもアイスを買いに行くミッションが 不安だったのだろうか? と少し負に落ちない気もしたが、先ほども頭に浮かんだ理由を思い出して一人納得した。 まぁアイスの種類を間違えるとパオリンすごく怒りそうだし。そうなるとこのミッションもそれなりにプレッシャーの かかるものだ。
だからスカイハイさんが一人だと不安で、私がお供になったことに喜ぶのも当然だろう。だって怒られるリスクが減るのだから。


くんは何のアイスが好きだい?」
「一番に絞るのは難しいです...チョコもバニラもストロベリーも好きだし...」

一番に絞れないなどと優柔不断に答えると、スカイハイさんは何が面白いのか、私もどれも好きだよ!  と、アメリカンにHAHAHAと白い歯をのぞかせながら笑った。
今日一日の様子とはまるで別人なスカイハイさん(いつものスカイハイさんとも言うべきかもしれないけど...) に驚き、一体どういう理由でここまで回復したのかいまいち分からなかったが、まぁよかった。多分心配事が解決 したのだろう、と無理やりハッピーエンドで〆ることにした。
無事にミッションを終えた私たち二人を残りのメンバーは手を上げて喜んでくれた。

「おめでとう!!」

祝いの言葉にいくらなんでも大げさじゃないだろうか...そう考える私と違って他のメンバーは「よかったよかった」 なんて言って喜んでいる。

「ありがとう! そしてありがとう!!」

スカイハイさんもお得意の台詞を言って、ミッション成功を喜んでいる。私も大げさだとは思いながらも祝杯モードの 雰囲気に流されてよかったよかったと、みんなと一緒になって手を叩いた。
まるで初めてのおつかいを終えてきたかのような喜びように、何故か少し感動まで交じり、すっかり雰囲気にのまれて いると、肩を叩かれておめでとう! と言われた。一体何故私も祝われるのかと頭にクエスチョンマークを浮かべたが、 そういえばスカイハイさんと一緒にミッションをクリアしたのだからそういうことかと納得した。

「ありがとう」

すっかり雰囲気にのまれてお礼を言えばスカイハイさんと目があった。
とりあえず愛想笑いを返すと、途端スカイハイさんの表情が幸せそうにへにゃりと崩れた。

.
.
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「...」
「...」

全ての話を聞き終えたネイサンは何も言わずに黙って遠くを見つめた。私も一緒に明後日の方向に視線をやってから、 いつまでもこうしているわけにもいかないと、依然黙り込んだままのネイサンに話かける。

「ネイサン...何か言ってよ...」
「何も言えないわ...ベタ過ぎでしょなんなのアンタ」

私たち二人が陣取っているテーブルの周りはどんよりと空気が重いような気がする。
ネイサンの疲れたような声音に私はもごもごと言い訳めいた言葉を返した。

「だって、付き合ってってそういう意味じゃなくてアイス買いに行くのを付き合ってってことなんだと思ったんだもん...」
「今どきハイスクール...いえ、ジュニアハイスクールに通ってるような子たちでもそんな間抜けな勘違いしないわよ!」

せいぜい鼻の垂れたおこちゃまぐらいよ。
吐き捨てるような物言いに、鼻の垂れたおこちゃま以下の私は椅子の上で小さくなった。全くもって今思えば何でそんな勘違いをしたのだろうと 後悔するのだけど、それは全てを知ったから後悔できるのであって、その時には何も分かっていなかったのだ。 そう考えればしょうがないという気もしてくるが、自分を慰めた所で何の解決にもならないのでこうやって言い訳を 考えていること事態無駄なのだろう。だけど...

「まさかキースさんが私を...なんて思わないじゃん! ...どうすればいい?」

叫ばずにはいられなかった。ネイサンから聞いて知った今でも信じられない。もっと言えば、付き合ってるなんて信じられない。 明日隕石が落ちてきます。って言われてもここまでは驚かない。「へぇー隕石落ちてくるんだ?」って感じで流せても、 「へぇー私とキースさんって付き合ってるんだ?」とはいかない。......まぁちょっと誇張したかもだけど。

「正直に言うしかないんじゃない?」

ネイサンは頼りになるけどこの場合の解決策は正攻法のものしか浮かばなかったらしい。

「えぇぇー...やっぱり...それしかないよね...」

うすうす気付かないようにしていたけどそれしか無いことは分かっていたので悪あがきする気にもなれず、私は肩を落とした。 背中を丸めて自分の靴を見つめながら、プレッシャーで胃がむかむかしてくるのを感じていると頭上に声が降ってきた。

「あら、それしかないなんてことはないわよ」
「...え?」

ぱっと顔を上げて、一縷の望み...ネイサンが地獄に垂らした蜘蛛の糸に縋りつく勢いで次の言葉を私は期待して待った。 都合よく胃のむかつきは収まり、後光が差しているように見えるネイサンに手を合わせる。
ありがとうネイサン!さすが私のネコ型ロボット!!

「アンタがスカイハイを好きになればいいのよ」

ネコ型ロボットなんて実際にはいない。
ネイサンの後光も気のせいだった。店の照明とかと間違えたみたい。







(20120811)