ホリデイ




ちゃんとキースさんに一緒に出かけようと誘った、という報告をカリーナにすると、よくやったと褒めてもらうことができた。
そのときにはどんなもんだい!私だってやろうと思えばできる! なんて、正直ちょっと調子に乗っていた。そう、完全に調子に乗っていた…。(そして調子に乗っていることがばれて、カリーナに「付き合ってるんだからこれくらい普通でしょ!」と言われてしまい、心臓にグサッとナイフを突き立てられたような心地になった。)
“キースさんを誘う”という大きなミッションをこなしたことで完全にやりきった気分だったのだが、実際はここからが問題だということに気づいたのは、約束の日の二日前だった。
キースさんを誘うという大きく思えていたミッションは、もしかしたら序章に過ぎなかったのではないか…? と。
ここからが本番ではないのか? という真理に気づいた。
どんな服を着ていけばいいのか? から始まった次々と浮かび上がる疑問に、まるで崖の端へと追い詰められていくような気持ちに心が消耗していくのを感じながら、気づけば約束の週末の日がやってきた。

「明日は楽しみにしているよ」と、はにかみながら帰って行ったキースさんに、私は自分が仕出かしたことの大きさに気づいた。
キースさんめっちゃ楽しみにしてる…!!
いや、私もジョンに会うのはとても楽しみなんだけど、誘った側なので明日は楽しんでもらわなければいけないというある種のプレッシャーを感じてしまう。明日のプランなんて特に考えていたわけではない。こういう感じに過ごしたらどうだろう? と、ぼんやりと予定とも言えないものを考えていただけだ。
ジョンと公園で遊んで、お腹がすいたらワゴンでホットドッグでも買って、それで疲れたら帰る、というふんわりしたプラン。
けれど、明日を楽しみにしている様子のキースさんからすれば、それって物足りなんじゃ?!?!?!?!
その事実に気づいてしまった私は昨日、眠れない夜を過ごした。
目の下にうっすらと浮かんでいたクマは化粧でどうにか誤魔化し、約束の場所へとやってきた。 結局、服はジョンと遊ぶことを考慮してパンツスタイルにした。
デートなのにパンツってどう思う?別に変じゃないかな? と、ネイサンに相談した結果(というか泣きついた)、公園デートならそれはおかしいことではないと後押しをしてもらったので決めた。
もちろん、何故公園デートをすることになったのかまで吐かされた。
「やだー! やっぱりあんたたちなんだかんだ言ってうまくいってんじゃない! デートの報告も待ってるわよー!」
結果、ハイテンションで私に言葉を挟ませないネイサン。何度「ちがっ!」「そうじゃなっ、」「ちょっ、ほんとに話を聞いて!」と言ったことかわからない。
ネイサンと通話を切ったときにはげっそりした。

誘った張本人のくせに緊張しながら待ち合わせ場所へと向かえば、すでにそこに一人と一匹が居ることに気づいて焦った。
まだ約束の時間まで時間があるはずだと思ったのだけど…!

「す、すいません…! 待たせちゃいましたか?」
「いや、私が待ちきれなくて早く着いてしまっただけさ」

ぐっ…!まぶしい!! キースさんの笑顔100%の輝きに、目が焼かれてしまうような気分だ。頭上で輝いている太陽並みの光を出しているような気がする。
キースさんの言葉に何と答えればいいのかわからず、視線をうろうろさせてしまう。そのとき、手を何かにつつかれた。

「ごめんごめん。無視してたわけじゃないよ?」

仲間に入れてほしいと訴えているのか、手に鼻を擦り付けにきたジョンに、思わず笑みが浮かぶ。そのまましゃがんでジョンと視線を合わせる。手を伸ばして嫌そうではないことを確認してから頭をなでた。

「ジョン? 初めまして、彩です」

頭を撫で、そのまま耳を掻きながら挨拶をすれば、ジョンは気持ちよさそうに手に頭を押し付けに来る。
……とんでもなく可愛い。
どうやら人見知りする子ではないらしく、尻尾を振っているところからも喜んでくれているらしいことがわかる。手入れのされているふわふわの毛並みと、きらきらとした瞳。人懐っこい性格に早くもジョンがかわいくてしょうがない。
本当ならその大きな体にぎゅっと抱き着きたいところだが…ジョンにしてみれば会って早々にそんなことしてくる人間。恐怖でしかない。
それに飼い主であるキースさんの目が気になる。
…まあキースさんが居なければ、あわよくば抱き着いたかもしれない…。

「かわいいですねぇ、すごく人懐っこい」
「ジョンも君のことが好きみたいだ」
「それなら嬉しいです」

いつの間にか一緒になってしゃがんでいたらしいキースさんが隣に居た。
にっこり笑ったキースさんに、私も自然と笑顔を返していた。ジョンもにっこりしているし、なんだか暖かい気持ちになる。








(20200505)