「おっ! おはよう。キースくん」 「おはよう!」 「……おはようございます」 ジョンの散歩帰りなのだろう。はぁはぁ、と息を弾ませるジョンの表情は笑顔に見える。 こう見ると何故あのとき変質者などと勘違いしたのか意味が分からない。大好きな飼い主との散歩が本当に好きなことが伝わって来る。微笑ましさしかない。 思わず笑ってしまうと、それに気づいたようにジョンが尻尾を振りながら近づいてきた。 それに伴ってリードでジョンと繋がっているキースさんも近寄って来る。 あの日のように爽やかな笑みを浮かべながらも汗をかいている様子のキースさんに、朝から元気だなぁ、ともう何度も見たはずなのに感心してしまう。 私は朝からとてもじゃないけどランニングして爽やかな笑顔を浮かべるなんてできない。へろへろになってその日一日使い物にならない自信ならある。 「おはよう、ジョン」 しゃがみこんで頭をなでると、嬉しそうに手に頭を押し付けてくる。まだ出会ってそこまで経っていないのだけど、こうして懐いてくれるジョンはものすごく可愛い。 抱き着きたいという野望は飼い主のキースさんが居る前では実行することができず、くすぶったままだ。 本能のままに大きな体に抱き着き、あわよくばちゅーだってしたいのに……。 「ジョンもおはようと言っているよ」 一緒になってしゃがみこんだキースさんがにこにこ笑いながら声をかけてくる。 このマンションに引っ越してきてから一月経つ今、朝の恒例になってきた光景だ。 「エレベーター来たぞ」という父の声にジョンから手を離し立ち上がると、何故か一緒に立ち上がったジョンにきらきらした目で見つめられる。 その表情に自然と笑ってしまう。 「いってらっしゃい!」 「いってきまーす」 「いってきます」 エレベーターの扉が閉まるまでにこにこした二人組に見送られ、一日が始まる。 同じ金色の毛並みで、キースさんとジョンはそっくりだ。 . . . 一月も経てば最初は気詰まりに感じていた父との二人だけの車の中も、これが普通だと感じるようになっていた。 ラジオや音楽を聞いていればそれなりに時間が経過するのだ。 今も車内には軽快なトークが流れていた。どうやら父にはお気に入りのラジオ番組があるらしく、朝の通学時間に流れるラジオは決まってこの番組だった。 窓の外の風景を眺めながら流れてくる音を拾いあげる。 番組途中にさらりと読まれたニュースは、昨夜の事件についてだった。 ネクストの能力を使った強盗が現れ、それを捕まえるためにヒーローが出動し、昨夜のシュテルンビルドは大騒ぎだった。 それらがテレビの中継として流れ、強制的に私もそれを視聴することになってしまった。楽しみにしていたドラマが途中で切り替えられ、 半ば強制的にヒーローの活躍を拝見することになったのだ。おかげでドラマの続きは来週放送ということになってしまった。 この時間に事件を起こした犯人に悪態をついたのは記憶に新しい。 「そういえば彩は好きなヒーローとかいるのか?」 「ヒーロー?」 シュテルンビルド市民であれば推しヒーローの一人や二人いるものだ。ただ女子高生に振る話題としては些かどうかとも思う。 ただ無難な話題ともいえるので、未だに少しぎこちない父の探るような会話を無碍にすることも出来ず、少し考えてから口にした。 「うーん、バーナビーかな」 思いついたのは唯一実名で活動し、その整った顔を前面に押し出して活動しているヒーローの名前だ。 少し気障なところがあるものの、それも妙に似合っていて嫌味に感じない。友達の中には熱狂的なバーナビーファンもいるくらいなのだ。 間違いなく女子高生に人気があるヒーローと言って間違いないと思う。 「バーナビーか。かっこいいもんな」 「お父さんは?」 「お父さんはやっぱりキングオブヒーローだな!」 テンションが上がったように大きな声が返ってきたので、そのことからもだいぶ好きな様子が伺える。 キングオブヒーローと呼び名のついているヒーローは、スカイハイ以外に居ない。ただ、ヒーローとして一番のポジションは、 先ほど名前をあげたバーナビーに数か月前に取られてしまった。それでもキングオブヒーローと言えばスカイハイのことを指しているのだと察することができる。 それくらいその呼び名が定着しているのだ。 風の魔術師という呼び名からも、彼の能力が風であることがわかる。 「ありがとう!そしてありがとう!」という決め台詞(と言えばいいのからわからないけど)をよく口にしているということは知っているが、 ヒーローについてそこまで熱狂的なファンでもないので、あまり知っていることは少ない。 その点、バーナビーはヒーロー活動以外にもメディア露出が多いので、まだバーナビーのことのほうが知っていることが多い。 だが、スカイハイを好きというお父さんの言葉は何となく納得できる。 スカイハイは王道のヒーローという感じがするのだ。 これでブルーローズなんて言われれば、ただ自分の好みの女の子ってだけじゃないの? って疑ってしまうところだ。 父親のそういうところはあまり見たくないのでまだ良かった。 |