あの夢を見てから三日経った。
意識的に思い出さないようにしていても、お風呂に入っているときや、夜寝る前などのベットの上で寝転んでいるときなどのふとしたときにどうしても思い出してしまう。 その度に”あれは現実だったんじゃないだろうか”という考えが浮かび、”いや、夢だった”と自らの考えを否定している。 あれは夢で間違いない。だって目が覚めたら寝ていたし。夢だったという理由を思い浮かべながらも胸には常に不安が巣食っていた。 あれから毎日、いつもの時間に鏡に触れてみるものの兵助くんとは会うことが出来ずに居た。
試験があるから三日か四日ほど...もしかしたらそれ以上会えないかもしれないと兵助くんは言っていた。
今日で五日目になる。
おかしな夢を見た所為で、私は不安でしょうがなかった。
友人と遊びに行ったときにも、どこか上の空であるのを友人達に指摘された。
一瞬全てを話してしまいたいと思った。そうして、そんなのはただの夢だと笑い飛ばしてほしかったけれど、結局口に出すことが出来なかった。 お風呂から上がった私は、速攻で髪を乾かして自分の部屋に閉じこもった。
そして、部屋の壁に備え付けている時計の秒針を見ながら時間を潰した。
いつもの時間を針が指したところで、鏡に触れた。
だけど、私の期待とは裏腹に、鏡は何の反応も示さない。それこそ普通の鏡のように私の顔を映しているだけだった。 途端、ざわざわと胸のうちに不安がくすぶるを感じる。

「...まだ試験中かー」

不安については知らないふりをして、わざとらしく声を上げて兵助くんが現れない理由を口にした。 それでも諦めることができず、私は三時間ほど傍らに鏡を置いて過ごした。 不安で胸が潰れてしまいそうだった。
   兵助くん、早くこの不安を取り除いてよ。
そんな言葉を胸中で呟いてみたものの、鏡が応答する様子は無かった。 情けない表情の私ばかりしか映さない鏡に嫌気がさして、鏡は伏せた。 抱えた大きな不安は兵助くんと会わないと消えることがない。 じわじわと胸の中を蝕んでいくように大きさを増す不安を私はどうすればいいのかわからなかった。
瞼を閉じると、最後に見た光景がよぎる    私が最後に見たのは、兵助くんに向かって矢が飛んでいく場面だ。続きがどうなったのかなんて...簡単すぎるクイズだ。
あの距離ならきっと、避けることは出来ない。兵助くんが忍者であっても...。 自分でも不吉すぎる想像に、首を左右に振って無理やり考えることをやめた。 兵助くんが用事があって会えないというのなら、いっそ、兵助くんのところに飛んでいけたら...。 そして兵助くんが驚きながら「何でここに?!」とか言うのだ。私はそれに対してふざけて「来ちゃった!」とか言ってみる。 彼氏の家に突然来た彼女みたいな。
現実にはありえない妄想は楽しいのに、だけど不安が胸に居座ったままなので純粋に楽しむことはできなかった。







(20141019)