![]() 気が付くと、私は見知らぬ場所に立っていた。 確かにさっきまでベットの上でごろごろしていたはずなのに、今は森の中に立っていた。 急に記憶が飛んでしまったかのようにこの場所に立っていたので、ただ唖然とすることしか出来ない。 とりあえず周りの風景を眺めていると、ここが初めて来た場所ではないように見えた。 だけど、そんなはずはない。 自分で自分の言葉を否定しつつも、鬱蒼と木が生い茂っている風景、少し開けているこの場所、青白く光る丸よりも欠けてしまっている月...そのどれもがまぶたにこびりついている光景と合致していた。 また夢を見てるんだ。 咄嗟にそう考えたものの、あの時とは違ってひんやりとした草の感触と、足に刺さる石の粒の痛みで気づいた。 見てみれば、私は裸足だった。 当然だ。靴を履いた覚えなんか無いんだから。 だけど、あのときは何も感じることがなかった。 そのことがこれが夢じゃないんだと知らせてくる。 どくどくと心臓が脈打つ音が早くなるのを感じた。夢ならこの心臓の音でさえ感じないんじゃないだろうか。 私はもしかしたらあの夢を現実に体験しているのではないか。そんな考えが頭をよぎった。 「まさか」なんて言葉で片付けることができるほど私はお気楽じゃないし、すでにその考えに確信に近いものを感じていた。 きっと、夢の場面を今から私は体現することになる。 それなら、兵助くんに起きることを事前に防ぐことが出来る! 高揚する気持ちを抑えながら私は辺りを見回した。あのときと同じ場所かどうか確認しようと思ったものの、正直わからなかった。 同じような風景が続く森の中では、あのときの場所かどうか確信することが出来ない。 だけど多分、ここで大丈夫なはずだ。 何故かわからないけど私は、その答えに自信を持っていた。 どうすればいいのか迷いながらも、私はそわそわしながらその場にしゃがみこんだ。 どうやって兵助くんを助けるのか、それを脳内でシミュレーションする。 兵助くんと、それを追いかけてきた人が刀で戦っているところに矢が飛んできた。そこで映像はぷつりと切れてしまったわけだけど、 きっとあの矢の軌道からも、兵助くんに当たってしまっただろうと思う。だから私はあの矢が兵助くんに当たるのを防ぐ必要がある。 自分がするべきことを改めて頭の中で整頓して、私は固く決意した。 絶対にあの矢から兵助くんを守ってみせる。 具体的な対策を立てることが出来たわけじゃないけど、それだけは心に固く決めた。 ぐっと握り拳を握ったところで、突然空気が変わったように感じた。何がどう変わったのか、上手く説明することができないものの、 空気が肌を刺してくるような感じだ。 ごく、っと思わず唾を飲み込んだところで、突然目の前を何かが通ったと思うと、一寸送れて頬を風が撫でていった。 顔を上げたときにはすでに何もないように感じたが、風が走っていった方向に頭を動かしてみれば人影が二つあることに気づいた。 そうやって私が現状を把握しようとしている間に、あの夢で聞いた音が鼓膜を鋭く貫いた。 キンッ、と響く音は間違いなく金属がぶつかり合う音だ。もっと言うなら刀がぶつかり合っている音だ。 すでに始まってしまった刀での競り合いに、私はここでぼんやりしている場合じゃないということに気づいた。 何度この金属音が響いたところで矢が飛んできたのだったけ、なんて今更なことを考えながら地面を蹴った。 鮮明にあのときの光景が脳裏に焼きついてはいるものの、詳しいことまでは覚えていなかった私の脳に尋ねても意味が無かった。 地面を蹴るたびに近づく人影に、私はこういう状況なのに胸の高鳴りを感じていた。 すぐそこに兵助くんがいるんだと思うと、あの恐ろしい状況を前にしているという緊張とはまた違ったもので手の平が汗で湿った。 「大丈夫っ?!」 静かな森の中に私の声が大きく響いた。 目の前の人影が二つともパッとこちらに注目したのがわかった。ちょうど雲によって月が隠れてしまい、唯一の光がなくなった今は表情まで読み取ることができなかった。 その間にも私は地面を蹴ってその人影に近づく。 「今みんなこっちに来てるから!」 翳っていた月の光が差したことによって、目の前の兵助くんの顔がよく見えた。 兵助くんはもともと大きな目をさらに大きく見開いてこちらを凝視していた。少し間抜けに開いた口を見て、こんな状況なのに笑ってしまいそうになる。 そうして、あからさまに動揺を浮かべている兵助くんと対峙している男に視線を向ける。 私としてはここで感動の対面を兵助くんと行いたいのだけどそうもいかない。内心の焦りを気づかれないように顔に仮面を這っているようなイメージで男を見据える。 さっきまでぴんと張り詰めていた空気が私の登場によって崩れた。それを肌に感じていると、目の前の男がじりじりと後退した。 私のさっきの言葉の真偽はわからないものの、本当だった場合には自分に勝ち目が無いと思ったのかもしれない。願望だけどそうであって欲しい。 このまま去ってくれればいい。そうすれば兵助くんに向かって矢が放たれることも無いはずなのだ。 だけど私はそのとき、自然とその願望が現実になっていると勘違いしていた。緊張をいつの間にか解いてしまっていた。 きっとこのまま何事も無く終わるのだと...だけど視界にきらりと光るものを捕らえて体が強張った。 その光ったものの正体が何であるのか、私はとてもよく知っていた。 だからすぐに体が動いたのだと思う。気づけば地面を蹴って、勢いよく前に飛び出していた。 光る矢の軌道上には夢で見たように兵助くんがいる。この後の光景は夢では見なかったけど想像はつく。 だから、私はそれを阻止しないといけない。 一瞬、何か重いものが胸にぶつかったように感じた。肺から強制的に空気を押し出されるような感覚と共に「うっ」と声が出た。......そして意識が遠くなった。 (20141022) |