![]() <一> 審神者の適正があるとわかってからもすぐに自分の本丸をもてるというわけではない。 審神者とは何かを学び...審神者としての心得的なものを説かれる。ビデオで。(教習所の学科みたいなノリのビデオを視聴させられた)(これでいいの...?) まずは現場を見てから自分の本丸のあり方を考えると言うやり方がいいだろう、ということで研修制度が導入されたのは私たちよりも二期上かららしい。 面倒だなぁ...というのが正直な感想だけど、どういう風にこれからしていけばいいのか、という漠然とした不安はあったので少し助かったというのが本音だ。 それでも一月はちょっと長いような気がする。三日あればどんなもんか大体わかるだろ、っていうのが同期と愚痴った上で出た適度な日数だ。 行くほうも嫌だけど、来れられるほうも絶対嫌だろう。自分のテリトリーに他人あげるとか、自分の部屋を知らない人がうろついているようなものだ。 それに何よりも研修期間が決まってから一番気になっているのは...嫌な審神者のところに配属されたらどうしよう...!ってことだった。 「よろしくね、わからないことがあったらなんでも遠慮せずに聞いて」 「はい、ありがとうございます先輩!」 嫌な審神者どころか綺麗で感じの良いお姉さんの本丸へと私は配属されたことを挨拶を交わしてから知った。 マジでよかった...神様ありがとう!! 配属される本丸によってはこの研修期間が全然違ったものになるはずだ。だからこそ私は神に感謝して自らの手を握ってお天道様を拝んだ。 にこっと笑いながら挨拶をしてくれたお姉さんに私は心の中でガッツポーズした。 そうしてそこから本丸の中を案内してもらいながら出会う刀剣男士たちを紹介してもらった。 いろんなタイプのイケメンと出会うので、ここがイケメンパラダイスってやつか...と思っているとかわいい男の子たちもいて 知ってはいたけど審神者ってすごいな。と感慨深く思う。感覚が狂わされそうだ。こんなイケメンばっかり見て生活してたんじゃ。 お姉さんがいい人のようだから刀剣男士も感じがいいのだろう。(審神者の人となりは多少なりとも関係するらしいし) 一月これならやっていけそうだと息をついたところで最後に案内されたのが台所だった。これだけの人数がいたんじゃご飯の用意も大変だろうと 思いながら覗き込んだ先には大きな鍋が今まさに火にかけられているところだった。 石原軍団って感じ...と、いかにも頭の悪い感想を胸中で述べていたところで背後に気配を感じて振り返ると全体的に黒くて右目に眼帯をしている男が立っていた。 刀剣男士であることはわかるものの名前まではわからない。えーと、誰だったかな...。教官の聞こえないはずの怒号が聞こえたような気がして焦っていると、それまでお姉さんしか映していなかった金色の瞳が動いて私を捉えた。 「光忠」 「...なんだい、主」 そうだ。確か燭台切光忠だ。 手に野菜を入れている篭を持っているところから察するに畑かどこかに行っていたのかもしれない。 篭を抱えている燭台切光忠に、先輩は先ほどから繰り返している私を紹介する言葉を口にした。 だけど私はそんなことよりもどことなく感じるおかしな空気に、二人を交互に見つめた。 そうして燭台切光忠が無理して笑みを浮かべていることに気づいてしまった。先輩は普通に朗らかな笑みを浮かべているからより一層変な感じがする。 けれどここでそれをつつくというのも空気が読めていなさすぎるので、何にも気づいていない振りをすることにして挨拶を済ませた。 「審神者の見習いで今日からお世話になります。よろしくおねがいします」 「うん、よろしく」 にこりと笑みを浮かべてこちらに向け治ったときには先ほどまで感じていた違和感が綺麗に引っ込んでいた。 そうしてこの本丸で見習いしとしてお手伝いをして、時にはいろいろと先輩審神者に教えてもらっているとすぐに幾日かは過ぎた。 上手くやっていけるだろうか、という不安も少し和らぐくらいには刀剣男士たちともうまくやれていた。 本丸によって性格には多少の差があるということなので、ここの先輩審神者のお陰で仲良く和気藹々とした雰囲気になっているのだろう。 お陰で居心地の悪さを感じるようなことはなかった。 だけど、だからこそ目に付くのが燭台切光忠だ。 この本丸の食事を中心的に作っているということなので、普段は厨に篭っていることが多いらしい。 だけど当然刀剣男士としての本分である出陣もこなしているし、ご飯だって一緒に食べる。その中でこの本丸の主と接触しているのを何度か見て、 違和感を感じずにはいられないと思うことが何度もあった。 「どうかしたか見習い」 「あ、鶴丸さん」 大きな広間でお酒を開けて皆で飲んでいるところでぼんやりとそこから離れて縁側にいるところで声をかけられた。 特に何かがあったというわけではないけれどお酒を誰かが持ってきて飲み始めて今では宴会のようになっている。 先輩はほどほどに、という言葉を残して既に部屋に戻ってしまっていたので、この場に居るのは男ばかりだ。 「この調子だと一月はあっという間かもしれないなと思って」 「あぁ、それは間違いないな」 どうやらちょっと声をかけてきたわけではなく、気まぐれなのか心配をしてくれたのか私の横に座り込んだところからして話を聞いてくれるらしい。 手にはちゃっかり徳利とお猪口を持っている。そういう私もチューハイの缶を持っているわけだけど...。 二人で月を眺めながらぐいっとお酒を煽る。背後では騒がしさが続いているが、部屋から出ると少しだけ静かだ。 そうしてからこれはいい機会かもしれないと思い立ち、疑問に思っていたことを口にした。 「ちょっと聞いてもいいですか?」 「なんだ改まって」 「えーと......先輩と燭台切さんって何かあったの?」 「こいつは驚いた」 少し切り出しにくい話題に言葉を捜すものの、結局は見つからずにずばりと聞いてみた。 そうすれば言葉とは裏腹に全く驚いてなさそうな鶴丸さんがにやりと口角を上げてみせる。 その反応に何かあったのだと疑いは確信になった。だけどまだ笑みを浮かべているところから見て、そこまでの大事ではないのだろうと勝手に判断した。 「やっぱり君でも気づいたか」 「そりゃまぁ...何か変な感じだし......って言うか”君でも”って何気に失礼だな!」 「いや、悪い。鈍くさいと思っていたがそうでもないんだな」 「謝る気あります?」 どうにもこの鶴丸国永という男は私のことをおちょくってくる節がある。まだここでお世話になるようになってからそこまで日にちが経っているわけではないものの、 何度も驚かされていることからピンポイントで狙われている気がする。 切欠は夜トイレから部屋に戻るときに影から飛び出てきて「わっ」と声を上げるシンプルな悪戯に「モギャッ!」と妙な声を上げながら30cmほど飛んだことだろう。 そのときのリアクションが気に入られてしまったらしい。このままでは驚きすぎてショック死してしまうかもしれない。 犯人は鶴丸。真実はいつも一つ。 だけどそれのお陰で距離が近くなったような気もする。こっちが勝手に思ってるだけかもしれないけど...というか、その可能性が高い。 あっちは私をターゲットとしてしか捕らえてなさそうだし。 徳利を渡されたので受け取れば、お猪口が差し出されたので促されるままにお酒を注げばぐいっと一気に飲み干す。まるで水だ。 「まぁ、俺が説明するのもおかしな話だ。主か光坊本人に聞いてくれ」 「えー」 結局私の疑問に答えてくれることもなく、話はそこで終わった。 ...かのように思えた。 <ニ> 「鶴さんに聞いたけど僕と主のことが気になるの?」 審神者業として特にお手伝いすることもないということなので、洗濯物を干すのを手伝ってから厨を覗いてみると、ちょうどお昼御飯の準備をしているところだったのでお邪魔した。 中には燭台切さんが一人、採って来たばかりだろう人参に包丁の刃を入れているところだった。 手伝うと申し出ると「助かるよ」と笑みと共に返って来た。いつものご飯を作る面子は出陣や遠征に行っているらしい。 後で仕事を終えた者が手伝いに来てくれるということだったけど、それまでは一人だったらしく喜んでくれた。 けれど私の料理の腕には期待してもらっても困る。ということを先に告げれば面白そうに声を上げて笑っている。 今日のメニューは混ぜご飯と味噌汁、後はまだ考えていないということだ。すでに少しお腹が空いているので、そのメニューを聞いただけで口内に涎が溢れた。 「料理はあまりしないの?」 「うん、実家暮らしだからお母さんが作ってくれるんです」 「それはいいね」 「けど審神者になったら自分でどうにかしないといけないから今から不安」 「燭台切さんみたいな人がいてくれればいいけど」「ふふ、引き抜きの話しかい?」「いくら出したら来てくれます? 言い値を用意しますぜ...!」冗談半分の言葉に燭台切さんも笑ってくれた。 初対面の時のような硬さもなければ、時折先輩に向けられている冷たさと切なさが交じったようなものでもない、純粋な笑み。 そのことに少し気を良くしながら頼まれた何本ものごぼうを洗い、ささがきを作ろうと包丁を握る。 これくらいなら何とかできるだろう、と思いながらもプレッシャーを感じる。こんなのも出来ないのか、と思われたくない...! そうして慎重に包丁をごぼうへと入れようとしたところで先ほどの言葉だ。 「...えっ!」 タンッ ゴトン 「ごめん! 大丈夫? 怪我してない?!」 完全に不意打ちだった話題に、私の手は勢い余ってごぼうを真っ二つに切り、切れたごぼうは流しへと落ちた。 自分でも切るつもりはなかったので驚いていると慌てた燭台切さんに包丁を引き抜かれ、両手を取られた。 「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしちゃって...」 「話すタイミングが悪かったね。僕のミスだよ...ごめんね」 「いえ、そんなことは」 申し訳なさそうに眉を八の字にしている燭台切さんに慌てて答えた。 手は未だに握られているので、そろっと大きくてごつごつした手から逃れる。 「探るつもりはなかったんですけど...そんな感じになってすいません」 鶴丸さんには本人に聞け、と言われたもののそこまではしようと思っていなかった。面と向かってそんなことを聞けるほど仲がいいわけでもなければ、空気が読めないわけではない。 それだというのにあの人...! 本人に言うとか...!! バツの悪さに俯いて頭を下げて謝ると柔らかな声をかけられた。 「どこか変だった?」 「えっ、あ、うん。ちょっとぎこちない雰囲気というか...」 「...そっか、普通にしてたつもりなんだけどばれちゃったか」 苦い笑みを浮かべて燭台切さんはお米を計り始めた。既ににんじんは綺麗に切り終わっている。 作業を再開した燭台切さんに倣って私も再びごぼうを手に取った。流しに落ちてしまったごぼうは念入りに洗い終わると入れ替わりで燭台切さんが米を研ぎ始める。 今の会話はここで終わったのだろうか。やっぱり他人には教えたくないような事情があったということだろう。 そう自分に言い聞かせて納得し、包丁を手にとってささがきを再開する。 「今の近侍は髭切さんでしょ」 「えっ、そうですね」 「二人っていつも一緒に居るでしょ」 言われてみれば、というかそこまで気にしたことはなかったのだけれど改めて口にされると先輩と髭切さんはいつも一緒に居る。 そのことに違和感を抱かなかったのは”近侍”という前提があったからだ。 「けど近侍っていつも一緒に居るもんじゃないんですか?」 「そうだけど、部屋まで同じ必要はないね」 「...えっ」 同じ部屋であるということは初めて知ったので驚いた。それでも先ほどのようにへまをすることなくささがきを続けられたのは珍しい話ではないからだ。 審神者と刀剣男士がそういう仲になるというのはよくある話しなのだと聞いたことがある。元は刀剣とは言っても、今は人の姿かたちをしていてどこをどう見ても人としか見えない。 これがまだ無機物であるかのような振る舞いをしているのなら話は違っていたかもしれないが、彼らには確実に心がある。 燭台切さんは手際よくお米を洗い終えると大きな鍋へとそれを移している。一度で洗いきれる量ではないので、またお米を洗い始めた。 「少し前までは主の隣は僕のものだっだんだ」 本当に何気ないように続けられた言葉に、今度こそ私は驚いて手の動きが止まった。 隣へと視線を移せば、燭台切さんが少し困ったように笑っている。だけど悲しそうにも見えて、なんて声をかければいいのかわからなくなってしまった。 そうして語られたのは私がイメージしていた先輩とは随分違う...彼らの主の姿だった。 この本丸での近侍とはつまり彼氏、または主が気になっている人らしい。そうして自分の傍に常に寄り添う人が居ないといけない性質らしく、 今はその役割を髭切さんが担っている。その前は燭台切さんで...。 つまり燭台切さんは早い話俗っぽい言葉で言うのなら元彼ということになる。この状況を鑑みると、それはひどい話のように思えた。 「主は寂しがりやで好奇心が旺盛だから新しくきた人が気になっちゃうんだ」 燭台切さんの前にも二人、同じような立場の人がいたらしい。一体誰なのか聞きたかったけれど踏み込みすぎかと思い、黙っているとそれを察して答えてくれた。 「二人とももう居ないよ」 「え...居ないって、」 「折れちゃった」 望んで折れたのか、それとも事故だったのかは誰にもわからないんだけどね。 そう言いながら相変わらず手際よく厨内を動く燭台切さんになんていえばいいのかわからなかった。 彼らは人の形をしているけれど刀だ。その刀が折れたということは死んだようなものだ。 分霊が元に戻るのだという理屈はわかっているけれど、個としてあったものが消えるのだから死んだも同然だと思う。 「...まぁ、少しだけ気持ちがわかるよ」 独り言のように呟かれた言葉は私の耳にまで届いた。咄嗟に燭台切さんを見つめれば、寂しそうな表情をしている横顔を見つけてしまった。 だけどそれも一瞬のことで、すぐさまパッと表情が笑顔に変わった。 「冗談だよ」 軽口として流そうとしたのはわかったけれど、それが嘘であることは一目瞭然だ。 先ほどの声は寂しさや悲しみみたいなものが滲んでいた。怒りなどがはらんでいないことは表情を見ればわかった。その変わりに諦めているような空虚なものも感じた。 ―→ |