去年の続きです 去年はお金がなかったということもあり、なんでもカードと肩たたき券を六枚バーナビーさんの誕生日にプレゼントしたものの、 今年も同じなのはさすがに無いだろうと思い、バーナビーさんにあげるプレゼントはまだ決めることが出来ずにいたものの、費用は確保しておいた。 結局去年のなんでもカードは、「次の休日に買い物に付き合ってください」ということで消化された。 「そんなのでいいんですか?!」と驚いた私に、バーナビーさんは不服そうな表情で「そんなのがいいんです」と言った。 そして私は一日バーナビーさんとショッピング街を歩き、最後にディナーまでおごってもらったのだ。 これじゃ私が誕生日みたいだし、次の給料日に料金を支払うといったのだけど、バーナビーさんは頑なに譲ってくれなかった。 「お昼にホットドッグをおごってくれたじゃないですか。あれのお返しです」とか言われたわけだけど、公園で購入したホットドッグと ジュースのセットと、フルコースディナーじゃ比べて物にならない。 15階から見える夜景プライスレスみたいな夜景を見ながら優雅なディナーをバーナビーさんはおごってくれたのだ。 私の誕生日じゃなくて、バーナビーさんの誕生日なのに!! バーナビーさんはなんて器のでかいお方なんだ...! と、私はバーナビーさんにしばらく足を向けれないと思った。 そういう背景があるので、今年は資金を用意しておいた。 バーナビーさんに超高級な料理おごってもらっちゃったーラッキー! ではどうしても片付けることができなかったので、来年の誕生日にお返ししようと思っていたのだ。 そうしてバーナビーさん貯金を始めた。そしてさりげなくバーナビーさんにどこのディナーが食べたいか調査していた。 (今度誕生日にディナーに行きましょうよ!私がおごりますよ! って言ってもバーナビーさんは頷くとは思えなかったので。下手すればまたおごられてしまう可能性がある。女子供に優しいバーナビーさんなので) そのとき、事件は起こった。 私が突然バーナビーさんがどこのディナーを食べたいのか調査し始めたのを不審に思ったらしく、逆に尋ね返されてしまったのだ。 「何でそんなこと聞くんですか」と。 私はとっさのことに動転しながら「あ、え、あ、意識調査です...」とだけ答えた。だけどあまりにも私が不審な態度らしかったらしく、(まあ、意識調査って答えるところからして怪しさ満天だけど...) バーナビーさんは虎徹さんから話を聞いてきてしまったのだ。虎徹さんに口止めをするのをすっかり忘れて、 バーナビーさん本人に尋ねる前にバディである虎徹さんならバーナビーさんが好きな店を知っているかと思って聞いてみたのが仇になった。 それを虎徹さんは漏らしてしまったのだ。それを知ったバーナビーさんは「プレゼントのリクエストをしてもいいですか?」と尋ねてきた。 バーナビーさんに何をあげればいいのかわからずにいたので、こちらにしてもそれは好都合だと頷く。 「去年と同じのが欲しいです」 「...去年と同じ? 肩たたき券ですか?」 「違い、...いえ、そちらもそうですが、もう一つの方です」 「なんでもカードですか?」 「...そうです」 肯定したバーナビーさんは、何だか恥ずかしそうに視線をそらした。 去年はあんなに文句言ってたのに、今年は自分から欲しいと言ってくるなんて気に入ってるじゃーん! と思った私は嬉々として了承した。 今年は資金も用意してあるし、何か高い物が欲しいと言われても大丈夫だ 「お誕生日おめでとうございます!」 「...ありがとうございます」 バーナビーさんがはにかんでいるのを見ながら、私は微笑ましい気分で封筒を渡した。 今日の日のために買った封筒には、控えめな花の絵が描かれている。 バーナビーさんが封筒を受け取り、「開けてもいいですが?」と尋ねてきたので「もちろん」と答える。 私はバーナビーさんの反応が楽しみで、わくわくした気分で封筒が開かれるのを見ていた。 ![]() 「...」 「どうですか! 上手くないですか?!」 バーナビーさんが封筒からカードを出し、まじまじと見ているのを確認して、待ちきれずに自分から感想を聞くために話を振った。 だけどバーナビーさんはカードを凝視して何やら難しい顔をしている。 これは...またきっと難癖をつける気だな、と去年のことをあって早くも察した私は気構えた。去年のリベンジが出来ると思ったのに、そうはいきそうにない。 バーナビーさんは難しい顔をしてカードを凝視したかと思えば、何やら首を捻っている。 「このうさぎ......」 「...」 「どこかで見たことがあるような気が...」 「そんなことありませんよ!」 パクリ疑惑を口にしだしたバーナビーさんに、にべも無く否定の言葉を返したものの、バーナビーさんは私の言葉を端から聞いていないようで、 未だにうさぎを凝視している。私は表面上は普通どおりを装っていたけれど、内心はどきどきだった。 去年散々”化け物”だの”醜い”だの言われたこともあり、私は世界一有名なうさぎと言っても過言ではないあのうさぎをモデルにして今年は書いてきたのだ。 モデルには確かにしたけども、パクリってほどパクったわけでもない。歯が出てるところなんかは、私オリジナルだ。 「あ!」 突然大きな声を上げたバーナビーさんに、私はびくっと体が跳ねた。 「わかりました。これミッフィーですね」 「ちがっ! ...もうー、人がまるでパクったかのような言い方をしないでくださいよ」 「しらっばくれないでくださいよ、明らかに黒じゃないですか」 「違いますよ! よく見てください」 バーナビーさんが持っているカードを覗き込み、私は一点を指差しながら「ここ!」と、その点を見るように主張した。 「歯が出てます」 「...」 「ミッフィーは歯が出てないじゃないですか」 「...」 「梅干しすっぱー、って感じの口じゃないですか」 「...」 「あ、梅干しっていうのは、」 「梅干しは知ってます」 無罪を主張するための証拠を突きつけるも、バーナビーさんからの反応はとても鈍かったのでてっきり梅干しを知らないのかと思ったのだけど、 意外なことにバーナビーさんは梅干しの存在を知っていたらしい。意外だと表情に出ていたのか、虎徹さんにもらったことがあります。という、梅干しを知っている理由がバーナビーさんから説明された。 そうか、虎徹さんが...。梅干しを初めて食べた人がする顔...それこそミッフィーがしている顔をバーナビーさんもしたのだろうか。 そうだとしたらその場面は是非見たかったのに...! 虎徹さん一人で楽しんだというのか...!! 私が悔しさに拳を握っている間も、カードを凝視していたバーナビーさんが突然質問してきた。 「うさぎを出っ歯にするのは何故ですか」 「ポリシーだからです」 私がすぐに答えると、バーナビーさんは納得したような、出来ないようなよくわからない顔をした。 だけどやがて諦めたかのように「まあ歯が出てても出て無くても似てませんが」と呟いた。 歯が出ていることに関してはに関しては、無理やり自分を納得させたか、私に付き合うのが面倒になったらしい。 「それで、何に使うんですか?」 誰もいないトレーニングルームのベンチで、二人して普段着で座っているという状況はいつもならありえない。 二人だけという状況もなかなかないし、普段着を着ているということもあまり無い。 ここに来る限りはトレーニングをしにきているのだからトレーニングウェアを着ているし、他にもトレーニングをしている人が居るはずなのだ。 それが無いのは、バーナビーさんの誕生日を祝うために他の皆は準備をしているからなのだけど。 私も準備係りに入ろうとしたのだけど、カリーナとネイサンに「あんたはハンサムの相手をしてる係!」を押し付けられて今に至る。 本当は誕生日プレゼントを渡すのは後にしようかと思ったのだけど、そうなってくると時間が無いかもしれないと思い、今渡させてもらった。 バーナビーさんも朝から不審な動きをしていた虎徹さんを見て、察しがついてしまっていたらしい。 「別にこんなことしてもらわなくてもいいのに」とまんざらでもなさそうに呟いていたので、内心は嬉しいのかもしれない。 ベンチの端と端という妙な距離感を保って座っているので、少しばかり声を張り上げて、隣に座るバーナビーさんに声をかけた。 なんでもカードが欲しい。とバーナビーさんからリクエストしてきたのだから、もちろん何に使うかは考えているのだろうと思い、 軽く質問をしたのだけれどバーナビーさんは「ドキッ」と思わず擬音をつけたくなるような反応をした。 触れられたくない話だったのだろうか...。一瞬考えてしまったものの、どうせ私が聞く話で願いをかなえることになるのだからそんなわけがないという結論に達した。 むしろ、何で私に話を触れられたくないのかよくわからない。 「え、何でそんな変な反応するんですか」 「別に変な反応なんてしてません」 「けど、ドキッ! みたいな反応してたじゃないですか」 「してません」 ツン、とそっぽを向いてしまったので、私が指摘したことが気に障ったらしい。 そこからやや沈黙が続いたので、もしかして怒らせてしまったのだろうか...と、ひやひやしながら隣の様子を伺っていると、突然バーナビーさんが話しかけてきた。 「...これ、他の人にも渡してましたよね」 「え?」 “これ”が何を指しているのかわからずにいると、バーナビーさんが封筒を持っている手を揺らした。 なんでもカードと肩たたき券のことを言っているらしいということがわかり、肯定する言葉を返す。 確かにバーナビーさんになんでもカードをあげたのが評判が良かったので、他の皆にもこのセットをあげたのだ。 (パオリンはさすがに肩たたき券は要らないと思い、なんでもカードを二枚あげたけど) それぞれにとても好評だった。それぞれのなんでもカードの使い方については、虎徹さんは娘さんのプレゼント選びに付き合って、キースさんとアントニオさんとは一緒にご飯を食べに行って、 ネイサンとカリーナはショッピングに付き合って、イワンは私が持っている日本映画を一緒に見たりした。 概ね好評だったので、今まで何をあげればいいのかわからなかったので、私としてもこれは助かるな、毎年これでもいいかもしめしめ...とか思ったのだ。 「はい。バーナビーさんが喜んでくれたので、他の人もこれにしようと思って...喜んでもらえたみたいです」 思わずそのときのことを思い出して口元がほころぶのを感じていると、バーナビーさんが何かを呟いた。 聞き取ることができなかったので「え?」と、尋ね返すとこちらに視線を向けられることがなく、もう一度バーナビーさんが口を開いた。 「...知ってます」 その声音がどこか棘があるように聞こえるのは気のせいだろうか。だけどその棘の正体は怒りではないように感じる。勘だけども。 その後は微妙な静寂がトレーニングルームを包んだ。何故このような雰囲気になってしまったのか、その原因は私にはわからない。 先ほどまで普通だったのに、秋の空と乙女心はなんとやら、みたいなことを言った人の気持ちが今ではわかる。 いや、バーナビーさんは乙女とかじゃないんだけども...。 早く準備を終えた虎徹さんが空気を読まずに部屋の中に突撃してくれないだろうか、そんなことを考え始めた私の願いは叶うことがなく、 虎徹さんが自動ドアを開ける事がなかった。けれど、沈黙がバーナビーさんが口を開いたことによって破られた。 「これ、使ってもいいですか」 「どうぞ」 バーナビーさんがこちらに見せてきたのは、なんでもカードだった。え、今このタイミング? とか思わないわけではないけれど、 ここでこれは言うべきではないと空気を読んで頷いた。そうしてバーナビーさんが何を言うのか待っていたのだけれど、一向に口を開く様子が無い。 「...」 「...」 「え...?」 「まだ何も言ってませんよ」 「いえ、それはわかってるんですけど、いつ言うんだろうと思いまして」 「今言います」 バーナビーさんはタイミングを計っていたのかもしれないところを私が邪魔をしてしまったので、ちょっと不機嫌な感じで返されてしまった。 バーナビーさんがタイミングを計っていたのならしょうがないけど、私としても一体何を言われるのか少しばかり緊張してしまう。 先ほど何故言いづらそうにしていたことからも、何か私にとってはよくないことなのかもしれない。例えば......めちゃくちゃ高いオーダーメイド枕が欲しいとか。 何で枕かはわからないけど、何となくバーナビーさんはそういうものにもこだわっていそうなので、この予想はあながち間違っていないかもしれない。 けど一応今年はお金の用意しているので、あまりにも高いもの以外は大丈夫だ。...多分。 私が一体何を言われるのかどきどきしている間にも、バーナビーさんは視線を下に向けたまま何も言葉を発しない。 今言います。って言ったのに、“今”は過ぎ去って“さっき”になってしまった。まあ、この感覚は人それぞれかもしれないけど。 だってバーナビーさんは今言うといってまだ言っていないのだから、バーナビーさんにとっては今は継続中と言うことだろう。 そんなどうでもいいことを考えていると、バーナビーさんが隣でスっと息を吸い込んだ音が聞こえた。 自然と視線を隣に座るバーナビーさんに向けると、アップルグリーンの瞳がこちらを真っ直ぐに見ていた。 何だかわからないけれど、ぴりっとした空気を感じて、私の背筋がぴんと伸びる。 「これから先、なんでもカードを僕以外の人にプレゼントしないでください」 「...え?」 あまりにも予想外の言葉に、私の反応は鈍かった。そんな私の反応に、バーナビーさんは少し不機嫌な顔をした。 「...なんですか」 「え、いや、オーダーメイド枕が欲しいとかじゃないんですか?」 「何で枕なんですか」 「...なんとなく」 本当になんとなくなので、そう答える以外になかった。そんな私の適当とも言える返答に、バーナビーさんは小さくため息を吐く。 もうさっきまでの空気はきれいになくなったので、私の背筋もだらしなく元に戻った。 「枕は持ってます」 「あ、そうですか」 「はい」 「じゃあ枕はいらないですね」 「そうなりますね」 バーナビーさんが持っているのだから、ただの枕じゃなくて高い枕なんだろうな、と考える。 その人に合わせて作られた、こだわりの枕を使ってそうだ。 「...それで、どうなんですか」 「え?」 「え、じゃないですよ。さっきの返答をまだ聞いてません」 「あ、あぁ...」 確かに、まだ何も言っていなかったと今更指摘されて気づいた。 改めて話題にされると、何でわざわざそんなことになんでもカードを使うんだろう、と言う当然とも言える疑問が浮かび上がってくる。 だけどその前に、その疑問をどうこうする前に、私が返答しなくてはいけない。そして、その返答は肯定以外に無い。 「なんでもカードですから」 「じゃあオーケーということですね」 「はい」 こくんと頷くと、バーナビーさんの表情が嬉しそうなものに変化した。 だけど私としてはやはり納得できない。私からもらえるなんでもカードを自分だけのものにしたからといって、そんなにも嬉しいものとはどうしても思えない。 けれどバーナビーさんにとっては何か意味があることなのか、それほど気に入ってくれたということだろう。多分...俄かには信じられないけれど...。 「...ホントにそんなのでいいんですか?」 やっぱり納得することができずに尋ねると、バーナビーさんがこちらを見た。 「もっと、去年バーナビーさんに連れて行ってもらったディナーを食べたいとかでもいいんですよ?」 去年と違ってお金もありますし! と、私が気を使って言うと、バーナビーさんは少し驚いた表情をしてから小さく笑った。 「これがいいんです」 そう言ってなんでもカードを大事そうに封筒にしまっているバーナビーさんを私は見ていた。 厚紙と折り紙を使って作ってるので、そうそう簡単に折れることはないけどそこまで大事にしてもらう代物ではないことは、 私が一番に知っている。なので、だからバーナビーさんが大事にしているのが申し訳ないようなこしょばいような気持ちになった。 「この変な絵が書いてあるカードが欲しいんです」 「変な絵は余計ですよ!」 すぐさま私が反応すると、バーナビーさんがおかしそうに笑った。 そのとき、空気を読まずに自動ドアが開かれた音がした。それと同時に虎徹さんが「よー」と言いながら、何だか変な雰囲気でトレーニングルームに入ってくる。 すでにバーナビーさんが知っているとは知らずに、これからサプライズのためにバーナビーさんを連れ出すつもりなんだろうけど、どうみても様子が変だ。 「あー、バニーちょっといいか?」 「なんですか?」 バーナビーさんはあくまでも知らないふりで返事をしている。それに虎徹さんは気づかれていないと思っているらしく、私に目配せをしてきたので頷いて返す。 虎徹さんに肩を組まれて連れて行かれるのを私は後ろから見ていた。二人が部屋を出たら、戸締りをしてから追いかけることになっている。 なので二人が出て行くのを見送っていると、バーナビーさんが部屋から出て行く直前にこちらを振り返った。 「約束ですよ」 その表情が楽しそうな笑顔だったこともあり、私は一瞬遅れてから頷いた。そうすると満足そうな笑みが返ってくる。 「約束ってなんだ?」「おじさんには関係ありません」「だっ...! 別にいいじゃねぇかケチケチしやがって」 「僕はケチじゃないです」いつも通りの二人の会話が離れていくのを聞きながら、私は嬉しそうなバーナビーさんの顔がまぶたに映ったみたいに消えなかった。 |