一話目 二話目 三話目
一話から順に読んでくださいー!




それからはますますバーナビーさんとどう接すればいいのかわからなくなった。前まで普通に話していたはずなのにどんな話をしていたのかまるで思い出せない。 バーナビーさんもバーナビーさんで気まずいと思うらしく(その気まずいがどういう理由なのかわからないけど。)ぎこちなさに拍車がかかって、二人で話すことも今ではなくなってしまった。 ...ってことはネイサンも、もちろんカリーナだって知ってるはず。 だってその現場を何度も目にしたはずだから。(つまり私とバーナビーさんがぎこちなく会話する場面や無言でつっ立ってるところ)なのに...

「これはいつも彩の役目でしょ!!」
「いや、けど...」
「ちゃんとここで時間稼ぎするのよ」
「いや〜...」
「わかったわよね...?」
「......は、はい...」

ネイサンが念を押すようにそして脅すようにドスの効いた声で言ったので、半ばびびりながら頷いた。どうにか煙に巻こうとしたのに脅しに私は負けた...。 拒否権などない状態でいつものように私とバーナビーさんはトレーニングルームに押し込められた。
いつもなら別になんてことないような状況なのに今は居心地の悪さが半端ない。

「...」
「...」

...き、きまずっ...!
「とりあえず座りましょうか...」と、同じベンチに座りはしたものの、端と端に座っているので距離はとても開いている。 最近はこんなに端に座るようなこともなかったのに、やっぱりお互い気まずいものがあるのがこの距離からもわかる。 意味もなくもぞもぞとお尻の位置を調整してみたりしながら焦る頭をフル回転させてどうにか会話の糸口を探す。

「...いつも私がこの役目だって言われてここに押し込まれちゃうんですよね! あはは......」

何故ここに私が居て気まずい思いをすることになったのかについてを説明するも、気まずさに空回りする笑い声が部屋に空しく響いた。 バーナビーさんはちらりとこちらを一瞥したかと思えばすぐにふいっと視線をそらしてしまった。地味にショック...。

「...そうですか」

声のトーンは限りなく低い。お誕生日様だとは思えないテンションに、やはりここに私が居るのは間違いではないだろうか?! と心の中で叫んだ。 このローテンションの原因は全部が私の所為だなんて自惚れるわけではないけれど、半分くらいは原因な気がする...。
いつもの感じでここに来たけど、もしかしたら何か理由をつけて今回のバーナビーさんお誕生日会は断ったほうがよかったのかもしれない。 いや、その考えは頭を掠めたもののそれはそれで気を使わせてしまうかと思ったのだ。だってこれまでは絶対に参加していたのに急に参加しないなんてこの間のことが原因だと言っているようなものだ。 だけど考えすぎだったかもしれない。来ないほうがよかった。
沈みそうになる気持ちにお前までテンションを下げてどうする! と鼓舞して無理矢理笑顔を顔に貼り付けて隣を見れば膝に腕を置いて手を組んでいるバーナビーさんがちらりとこちらを見る。

「えっと、...今日は天気がよかったですよね!」
「...そうですね」
「なのに洗濯する時間が無くて今日は干せなかったんですよねー」
「そうですか」
「目覚ましのアラームをしてたはずなのに消して寝ちゃったみたいで...」
「...」
「眠れなかったんですよね、昨日」

ここまで関心が無いと態度で示されると流石に笑顔を貼り付けていられなくなり、言葉尻は消えそうなほど小さくなってしまった。
多分バーナビーさんにしてみれば新しい彼女も出来たことだし私のことはどうでもいい存在になっているのだろう。 そんな私と一緒に居ないといけないなんて苦痛かもしれない。こんなどうでもいい話、以前ならそれでもバーナビーさんは付き合ってくれていた。 だけど今はそうじゃなくなったんだなぁと思うと口も重くなるし、気分も落ち込んでくる。
いっそのこと喋らないほうがいいのかもしれない。そんな考えが浮かぶまでには時間は必要なかった。ふぅ、とため息を深い呼吸で逃がしてから口を閉じた。

「...眠れないときはホットミルクがいいですよ」

ぼそっと落とされた呟きに思わず目を瞬きながら隣に座るバーナビーさんを見つめる。 視線の先では少し気まずそうに視線を彷徨わせるバーナビーさんが居た。
てっきり返事は無いものと思っていたところでの言葉に驚いてしまい、未だに何も返せていなかったのに気づいて慌てて口を開いた。

「あ、言ってましたね」

思い出したのは眠る前にホットミルクを飲む習慣があると話してくれたときのことだ。
意外にもかわいらしい習慣は思いのほか頭に強く記憶されていたようだった。時々バーナビーさんは(本人に言ったら怒ると思うけど) かわいらしいところがある。その中の1つだ。

「毎日飲むんですよね」

あの時「かわいい習慣ですね」と笑いながら言ったことに、バーナビーさんは少しだけ気を悪くしたみたいだった。
少しの間むっつりと黙ってしまったので言っちゃいけなかったのかと少しだけ焦れば「...かわいいなんて言われるのは心外です」と言われた。 それからどうやらバーナビーさんにかわいいというのは禁句なのだと学んだ。別に可愛いって言われるくらいでそんなに気分を害するものなのかな?  という疑問は思いがけず今年解決された。禁句であるとはわかりながらもうっかりそれを口にしてしまったときに「...好きな人にはかわいいではなく、かっこいいと言われたいんです」 と顔どころか耳まで真っ赤になっているバーナビーさんに言われたのだ。
それにつられて私も顔に熱が上ってきてしまい、二人揃ってゆでだこみたいになって妙な雰囲気になってしまったのは記憶に新しい。
だけど今じゃバーナビーさんの好きな人は私ではなくなった。
今なら「かわいいですね」と言っても怒られないかもしれない。そんなことが頭に浮かんだけど、試してみる勇気はなかった。 これでなんでもないように返されたら...想像しただけで心臓がきゅっと縮まった。

「...どうして眠れなかったんですか」

今度はきちんとこちらを向いて投げかけられた言葉。 「どうしてかなんて一年前の今日のことを考えたからに決まってるじゃないですかー!」頭に浮かんだ軽い調子の言葉を口にするのは憚られた。 調子よく冗談っぽく声にすることが出来るかいまいち自信がなかったからだ。
どうやら笑って誤魔化すという日本人得意の処世術を発揮させる場面だ。

「ちょっと考え事をしてたんです」
「今日のことですか」

どきっとしたのは確信をつかれたような気がしたから。
けどそんなことはないと思う。まさに考えていたことを当てるなんてそんなエスパーみたいなこと出来るわけない。 自分に言い聞かせながらも心臓は嫌な感じに鼓動を早くしていた。
...だって今更言うなんてできない。

「...僕の、」
「よー!! バニーちゃん!!」

大声と共に現れたのはやっぱりバーナビーさんのバディでもある虎徹さんだった。
バーナビーさんが何か言おうとするように口を開いたものの、それをかき消してしまうほどの大声だ。
もう何年も続いている恒例のやり取りなのに未だにぎこちなさが拭えない。昨日あんなに練習してたのに少しも上達していないのが逆にすごい。 (私とカリーナとイワンの三人の指導は残念なことに1つも生かされることがなかったようだ)(ほとんどカリーナーが指導してたけど)
連年どおり虎徹さんはぎこちなくバーナビーさんを連れ出した。
一瞬だけ交じり合った視線には熱が灯っていたように思える...なんて、自分に都合のいいことを妄想してしまいそうになる。
二人が去って急に静かになったトレーニングルーム内を見渡して、鞄に入れてあったものを取り出した。
直接渡すのはもう無理だ。






(20180102)  あ、あけましたね...?そんでまだ続くー!